第51回 気象予報士 真壁京子さん

「先日,六年ぶりにTBSの『筑紫哲也のニュース23』のお天気キャスターに復活しました。あのときの苦労が嘘のように今ではテレビに出てしゃべることが楽しく感じられるようになりました」
悪夢の「航空性中耳炎」
 スチュワーデスの試験は,一次が五~六人単位のグループディスカッション,二次が受験生二人に試験官五~六人の面接と,一般常識の筆記試験,三次が体力測定と身体検査,英会話の面接でした。
 一九八九年の十二月にめでたくスチュワーデスに採用されました。まずは訓練所に入所して英会話や,税関,飛ぶ路線の特徴,機内での免税品販売やお金の換算などの授業を受けました。英会話の授業が四割ぐらいでしょうか。あとはサービスの仕方です。テレビドラマ「スチュワーデス物語」に出てきたような,実際の客室の模型での訓練(モックアップ訓練)です。ドラマとは違って,女子校のように非常に和気あいあいとした楽しい授業でした。
 訓練を終えると,念願の空の業務につきました。フライト生活は,私にとっては体力的には全然きつくありませんでした。たとえば国際線で時差があっても,私の場合は単純なのか,すぐに眠れてしまいます。その国に行って夜だったら寝て,朝だったら起きているという感じでした。
 フライト生活はとても充実していたのですが,そんな私に「航空性中耳炎」という予期せぬアクシデントが起こりました。飛行機に乗ると機体の上昇とともに気圧が変化して耳に違和感を覚えることがありますが,人間の耳には調節機能があって,「耳抜き」という形でうまく換気できるんです。ところが,体調が悪いときに飛んだり降りたりすると「耳抜き」がうまくいかず,かなり危険な状態になります。一度のフライトで耳抜きができなくてもそのまま自然に空気が耳から抜けるのを待っていればいいのですが,私の場合は空気が抜けずにそのまま続けて飛ばなければならなかったのでさらに空気がつまってしまい,とても痛くて我慢ができないほどでした。そして,フライト生活三年六ヶ月目に鼓膜に穴が空いてしまい,大好きだったスチュワーデスの仕事を辞めざるを得ない状況になりました。もし耳の事がなければ,未だにスチュワーデスを続けていたと思います。


気象予報士になりたい!
 スチュワーデスを辞めてから,しばらくはアルバイトをするなどの浪人生活をしていました。でも,「手に職をつけなければ」と思い,転職情報誌を見ていたら,たまたまお天気キャスターの矢玉みゆきさんのインタビュー記事を読んで「これしかない」と思ったのです。気象予報士の存在をその時初めて知りました。でも,それが天気の仕事を目指した直接のきっかけではありません。
 私は,もし日本航空に入っていなければ絶対に気象予報士という選択はあり得なかったはずです。飛行機のコックピットではキャプテンたちが「あの雲に入ったら揺れる」というようなことを判断するのを見てあこがれていました。また,彼らは飛ぶ前に「今日はこの辺の天気はこうなっていて,こういう注意が必要です」というような天気のブリーフィングをするのですが,私はそういう仕事をやりたかったということがあったので気象予報士を目指したんだと思います。
 ある日,知人の紹介でTBSのお天気の現場「TBSお天気班」で勉強をさせてもらえることになりました。さらにプロデューサーの紹介で,お天気キャスターの森田正光さんの会社『ウェザーマップ』で気象情報に関するデータをリサーチする仕事をすることになりました。そうした仕事をしながら,試験に向けての勉強をするというハードな毎日を送ることになってしまいました。
 気象予報士の試験は「一般知識」「専門知識」(ともにマークシート方式)の二つの学科試験があり,最後に技能に関する「実技試験」(記述式)があります。試験は半年に一回行われ,一年以内に三つの試験に合格すれば気象予報士になれます。
 私はとにかく基礎からしっかり勉強をしたかったので,まずは学研まんが『天気100のひみつ』を読むことから始めました。でも,私にはまんがでも意味がわからなかったのです。たとえば「氷水の入ったコップの外側に水滴が付くのはなぜか」という説明も,森田さんやスタッフの方をつかまえて幼稚園児でもわかるように説明してもらって,「なんだ,そんなことか」とようやくわかるといった感じでした。でも,このまんがの本はまんがだからとあなどれないほど充実していて,気象予報士になるための全ての基礎があの本には入っていました。
 基礎といえば私は分数や小数の計算なども基礎からもう一度確認するために,小学生のドリルを買ってきて取り組みました。書店で選ぶときは,まるで自分の子どもに買い与える母親のようなふりをしていました(笑)。そのときは,親の言うとおりに小さいときからきちんと勉強しておけばよかったとつくづく思いました。小さい頃に勉強しなかったら大きくなってから勉強しなければならないというように,おそらく人生の中で勉強する時間というのはあらかじめ決まっているのではないでしょうか。


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