第51回 気象予報士 真壁京子さん

「気象予報士の試験が難しくてあきらめることはありませんでした。あまりにも私に天気の知識がなかったので純粋に勉強が楽しかったのです」
『気象予報士になりたい!』(講談社)
三足のわらじをはく日々
 森田さんが出演する『ニュースの森』のリサーチの仕事では,毎回,お天気にまつわるネタを決めて,構成を考え,いろいろな資料を探して用意していました。そうしたネタを見つけるために,常にいろいろなアンテナを張りめぐらせている必要があります。たとえば今の季節は,鶴や白鳥がたくさん飛来してくるようになりましたが,それとは別に尾形光琳の絵に鶴が何羽も同じ方向を向いて立っている絵がありますよね。なぜみんな同じ方向を向いているんだろうと疑問に思って調べてみたら,鶴には風上に向かって立つという習性があるということがわかりました。これは天敵が来たらすぐに逃げられるからです。このようにちょっと素朴な疑問を調べてみたら,意外なネタが見つかることもあり,とてもおもしろかったです。
 一九九六年十月から一年間,TBSの『筑紫哲也のニュース23』で毎週金曜日,関東ローカルのコーナーでお天気キャスターを務めました。当時は毎回,約二分間の枠の中にお天気にまつわるトピックスと予報をきちんと収めるのが大変でした。もっとも,テレビに出てしゃべったのはこれが初めてだったし,テーマを決めて資料を用意して構成まで考えて,というように全部自分でやっていましたから,それだけで手一杯でした。
 『ニュース23』の出演,『ニュースの森』のリサーチの仕事,気象予報士試験の勉強,と三足のわらじをはく毎日で,精神的につらい日々が続き,胃潰瘍になったこともありました。それだけに合格したときはもちろんうれしかったですが,なによりも「これでやっと手に職だ」と思いました。


気象予報士・真壁京子誕生
 気象予報士になったことで,多少,自信が出てきて,テレビ出演も以前よりはスムーズになりました。でも,テレビでしゃべることに関しては,いかに場数を踏むことが大切か,ということだと思います。あるプロデューサーの言葉で「つまようじでも毎日持ち上げていれば筋肉は付く」というのがとても印象に残っています。
 自分の予報を出せるようになってみると,予報を出すことよりもキャスターとしてしゃべることの内容に対するプレッシャーがとても大きいです。やはり言葉というのは難しいもので,たとえば「今回は台風の直接の影響はありません」と言っても,台風の外側の雲がかかっているから台風自体を直接と言う人もいれば,それは台風の中心が来るわけではないから直接ではないと言う人もいます。その言葉や表現が万人にとって同じ意味でとらえられるかというと,決してそうではない部分がありますので,とても注意が必要です。
 予報が外れても,それは自然が相手なので仕方がないのでは,と思います。でも,それが天気のおもしろさでもあります。自然はいつも一たす一は二ではないのです。ですから,どんな状況にも対応できる度量をもっていないといけません。いくら過去の天気図のパターンがこうだと言っても,絶対に形通りにはなりませんから。
 予報を出すときの流れはこうです。まず,TBSのウェザーセンターへ行くと,気象庁からファックスが届いています。地上天気図,上空一五〇〇,三〇〇〇,五五〇〇メートルからの各層の高層天気図,予想図,アメリカの気象衛星「ゴーズ」からの雲の映像やレーダー画像,など数十種類の資料をみて自分の考えを決めます。それから気象庁の予報と照らし合わせて,違っている場合はどこが違うのかを検討します。はじめに気象庁の予報を見てしまうと,ひきずられてしまうからです。
 予報の仕事は常に天気図とのにらめっこであり,非常に地味です。でも,その地味な作業の中で自分の思ったとおりの天気になったときにはやりがいを感じます。
 予報を出すときには常にいろいろな人の意見を聞くように心がけています。だれが見ても同じ予報の時は簡単ですが,難しいときはみんなと話し合ってなぜそうなるのかということを検討します。今年は特に予報が難しい年と言われており,みんなの意見が割れた具体的な回数はわかりませんが,たしかにこの夏はとても難しかったです。
 また,今年は秋も難しいですね。元々の予想天気図がずれてしまっているうえに,十二時間ごとに天気が刻々と変わっているわけですから,まずその天気図自体が信頼できないんです。でも,それで予報しなければいけないので,本当にその通りになるかは,実はふたを開けてみなければわからないですね。それが天気のおもしろさ !!

(写真・構成/桑田博之)
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