第10回 百瀬堅斗さん
農家を始めるということ
 農家を始める人は、家業を継ぐ人のほかに、私のように進学・研修を経てすぐに農家になる人もいますが、仕事を辞めて農家へ転職する人の方が多いようです。自分の意志で始める人もいれば、仕事がなくふらふらしている人が勧められて始めるということもあります。ただどんな理由で始めようが、自営業なので自分がやらないことにはどうにもなりません。目の前の難題から逃げるというわけにはいかないのです。
 現状として、私の所属しているフラワースピリットでは若い農家を増やそうと働きかけていて、実際私も含めて若い農家が増えています。やはり農家の平均年齢は上がっていますし、若い農家を増やしていかないと力も落ちていきます。
 花の農家にも展覧会があって、自分の育てた花の出来具合を競い合います。私の里親の上條さんが世界一になったのも、オランダで行われた展覧会です。そういった展覧会も、若い人が増えれば、若い人たちに負けたくないと活気が出ます。そういう意味でも、若い人が増えるということは、相乗効果としていい影響をもたらすのではないかと思います。私たちもやるからにはベテランの人たちを抜いてやろうという気もちがもてます。
 花の農家は農業のなかでも比較的始めやすいのではないかと思います。土地の面積はさほど広い必要はありませんし、若い人を受け入れる態勢があります。ですが当然、どんな仕事でも楽な仕事はありません。楽をしたいと考えていては、いい仕事はできません。


やりたいことをやってみよう
 今の子どもたちには、第一に夢をもちましょうと言いたいです。高校を選ぶのにも、大学を選ぶのにも、文系・理系を選ぶのにも、夢や目標がないと選びようがないと思います。農大にいた頃、ある直売所の人に、「君たちはなんで農大に入ったのか? やりたいことがあるから入ったんだろう」「夢や目標のない行動は行動じゃない、ただやっているだけだ」と言われたことがあります。
 とはいえ中学生の間に夢を決めろというのも難しいですから、何でも興味をもったことをやってみるのがいいと思います。親に頼み込んででもやってみたいことはやってみるべきです。
 私は、もちろん農業の手伝いもそうですが、ピアノをやっていました(笑)。4歳の頃「お姉ちゃんがやってるから僕もやってみたい!」という程度の興味で始めましたが、それでも中3の夏までは続きましたし、今ある程度のリズム感や器用さがあるのはそのおかげかなと思います。
 資格を取るのもいいでしょう。中学生で取れる漢検や英検でもいい。私は農大で取れる資格はできる限り取りました。毒物劇物取扱責任者などという、今の仕事では必要ないものも取りましたが、この先どこで生きるかわかりませんよ。
 また、保護者や先生に対してある程度自分を通すべきだとも思います。本当にいい大人なら自分のやったことを認めてくれるはずですし、間違っていたら間違っていると言ってくれるはずです。やりたいことはやってみて、間違っていると言われたらそのとき考え直せばいい。人として間違っていることさえしなければいいんですから。


尊敬される大人に
 学校の先生には、子どもたちがやりたいと言ったことはやらせてみて、親身になって考えてあげてほしいと思います。あとは、尊敬される人になってほしいです。人間的にでもいいし、興味がわくような面白い授業をやってくれるということでもいいと思います。
 高校の数学の先生で、この先生に教わってよかったという先生がいました。数学だと、ただ問題を解かせるだけ、解き方も最低限を黒板に書いておわり、という先生もいますが、その先生は証明のように考え方を細かく教えてくださいました。今でも当時のノートを見ると、こんなに細かく教わっていたのかと驚きます。
 人生で一番尊敬しているのは両親です。自分を育ててくれたことはもちろん、自分を誰より理解しているし、私が間違っていたら間違っていると言ってくれるのはやはり両親です。私にとっては先生と同様、両親も尊敬されるべき存在です。


「やりたい!」という気もちが一番
 夢は、やはり里親である上條さんを超えることです。「あの人の技術を超えたい!」「あの人よりいいものを作りたい!」と思っています。はじめて上條さんの花を見たときも感動しました。ただそれは先の目標なので、今現在は上條さんに教わった技術を反復して、自分の技術を向上させるのに専念しています。
 祖父が亡くなって「土地がもったいない」と思ったことが私の転機でしたが、それはあくまできっかけで、私が農業をやっている理由は、つまるところ「やりたい!」という気もちだけだと思います。小さい頃から農業の手伝いをしていて、体を動かすのが好きで…というのはそれぞれ建前のようなものでしかなくて、農業をやって楽しかった経験から「農業をやりたい!」と思ったことが一番強かった。だから子どもたちには何よりもやりたいことを見つけてほしいと思います。
(構成・写真/中込雅哉)


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