第10回 百瀬堅斗さん
さまざまな制度を利用する
 そういった経緯で、農大を卒業してから上條さんの元で2年間研修をしました。パートの方々と一緒に働きつつ、どの時期に何をやる、温度管理はこうやる、などの細かい技術や知識を覚えていきました。
 この研修は、長野県で行っている新規就農里親制度という制度を利用しました。私は大学の先生からの紹介で研修先の里親さんを見つけましたが、県の普及センターや農協で相談したり、県のサイトで情報を得たりすることもできるはずです。今は花き業界も若手の担い手が欲しいので、農業をやってみたいという人はさまざまなところで相談を受けてくれるはずですよ。
 資金を援助してくれる制度も整っていて、私は青年就農給付金、青年等就農資金などを利用しました。私は研修中でも給付を受けられる方式で申し込んだので、研修中の生活費などのお金のやりくりもこの制度のお世話になりました。里親さんからも給料はいただけましたが、この給料については里親さんの裁量次第で、きちんと制度として決まっているわけではないようです。
 祖父の土地を継ごうと思って農業を志した私ですが、就農にあたって祖父の土地は使わないことにしました。というのも、祖父の土地を使うと、青年就農給付金の給付条件から外れてしまうのです。ややこしい話ですが、三親等以内から土地を借りるとそれと同規模以上の面積を三親等以外の人から借りなくてはいけませんでした。そのため、安く土地を貸してくださる地主さんを探し、その方から借りることにしました。
 こういった制度を利用しつつ、里親研修の2年間で就農のための準備を進めていきました。ふり返ると、大学で理論や基礎を学び、里親研修で実践を学んだわけです。
 私は新規就農里親制度を知らなかったので農大へ行きましたが、農業をやろうとするうえで、必ずしも専門学校や大学を出ている必要はないと思います。専門学校・大学を出ていなくても、親や親せきのつながりや、仕事を探すなかで県に相談するなどして里親を見つけ、研修して農家になる人もたくさんいます。


農業=自営業を始める
 今、ハウスの管理は私と会社を定年退職した父のふたりでやっています。退職した父を「ひまでしょ!」と引き込みました(笑)。たまに母が手伝いに来てくれますが、そろそろ人手が足りなくなってきて、ひとり雇いたいなと考えています。
 里親研修を終えた人は、どこかの農家で雇ってもらうということはまずなくて、自営業としてひとり立ちをします。ハウスの建設や機械の準備から経営方針の立案、労働、経理など、すべて自分でやらなくてはなりません。
 そのための準備として、研修中に経営計画というものを立てます。これは里親さんに相談すれば教えてくれます。資材や機械は、他の農家の方や近所の企業に譲っていただきました。近くにいる人に相談すれば、意外と物の面でも知識の面でも力になってくれるものです。
 今は上條さんが代表をされている、花の生産者団体「フラワースピリット」に所属しています。この団体は独自の販路を確立しているし、ブランド力もあるので、新人の農家でもフラワースピリットに出荷すれば、あとはその販路で市場などへ販売してくれます。この他にも、JAや直売所等に出荷している人もいます。


栽培しているラナンキュラスの花。「一つひとつの株は、実は少しずつ違っているんです。その違いを見ていくのが楽しいですね。」
新人農家の苦労と喜び
 農家を始めて一番大変なのはやはり資金繰りです。経営計画上でも、1年目は赤字の計画でした。自営業ですから、2、3年目まで苦しいのは覚悟しなくてはなりません。
 自分だけで農業をやるのは、里親さんの元での研修とは違ってなかなか思う通りにはいきません。里親さんの元では自分が多少ミスをしても周りがカバーしてくれましたが、自営業では手が届かないところも出てきます。
 そうやって困ったことが出てきたら里親さんやフラワースピリットの方に相談するようにしています。困ったら聞ける人がいるので、大変ですが不安はありません。彼らは20年、30年と農家をやってきている人なので、聞いて間違いはないのです。
 フラワースピリットに所属する生産者の間での情報交換は密にしていて、だいたい月1回、お互いの圃場(ほじょう、農産物を育てる場所)を見学し合うこともあります。ベテランの農家さんの圃場を見て勉強したり、逆に自分の圃場を見てもらってアドバイスをいただいたりします。
 フラワースピリットのブランド力や技術に助けられていることは多いですが、その分その品質に追い付かなくてはならないところは大変であり、同時にやりがいでもあります。
 やりがいといえば、植物が育っていくのを見るのは一番のやりがいです。はじめて花が出たときはとても嬉しかったですね。農家を始めてから4、5か月後でしたが、「やっと出た!」と思いました。


経営者としての責任
 さきほど人を雇いたいという話をしましたが、雇う人を探すのも自分でやらなくてはなりません。自分で経営しているので当然ですね。とはいえこれについても里親の上條さんが相談に乗ってくださり、今は地元の新聞や情報紙に募集広告を出そうと考えています。
 研修先の様子を見ていると、人を使うということの難しさも感じるので、経営者として厳しい判断をしなくてはならないこともあると思っています。
 そういった経営面のことも上條さんに教わりました。上條さんは「農業じゃなくて経営をしろ」とよくおっしゃっています。経営である以上はきちんと利益を上げなくてはいけない。そういう意味でも、人員を雇って成果を上げるということが必要だと思っています。


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