第8回 教育YouTuber 葉一さん

教科書は著作権から使用できず、内容を読み込んだ独自の板書案を作成。「教科書でつまずいた子をこれで救えれば嬉しいですね。」

独自の授業、発想の原点は
 YouTubeでの授業というアイデアは、私が元々YouTubeで映像を見るのが好きだった事から、自分の授業を上げれば誰でも見られるのでは、という発想です。当時家庭教師をやっていたのですが、すぐに忘れる子どもに同じ説明を度々するより、自分の授業を録画した映像があれば、何度でも見てもらえますよね。翌日には譲り受けたホワイトボードに板書し、ホームビデオで撮影した動画をアップしました。忘れもしない27歳の時、2012年6月1日が初投稿です。何もわからず作った最初の動画は稚拙なものでしたが(笑)。
 実は塾を辞めた後に結婚して、2か月後に動画投稿を始めたんです。妻には「30歳になるまでに形にならなかったら諦めるから、やらせてくれ」とお願いしました。当時は先の見えない試みに理解を示してくれて、心から感謝しています。
 動画をあげたものの、PRは1回もしたことがありません。私は子どもたちの口コミの力を信じていて、有益なもの、良いものだと思ってもらえば絶対に広がると確信していました。必要なきっかけやチャンスが訪れるまでは頑張ってみようとPRゼロを堅持しました。今では勉強をしようと思って検索をすると先頭に出てくるようになり、容易にアクセスしてもらえますが、当時は友だちや親同士、あるいは先生に教えてもらって、と様々な口コミでここまで来た感じです。
 全教科を配信しているのですが、やはり苦手な科目は全く進みません。社会を例に取れば、教科書の見開き2ページ分でひとつの動画にしているのですが、200ページの歴史の教科書ということは約90本の動画になるんです。教科書そのものは著作権の関係で使用できませんので、撮影の前には教科書内容の要約から始めます。毎回気が遠くなりますが、ひと科目が終わったときの開放感、達成感を味わうと止められなくなります。
 私の配信は勉強動画なので、再生数もたかが知れてはいますが、日本のトップYouTuber数名は億プレイヤーと言われていて、年間で1億円以上稼いでいます。ひとたびユニークな動画を上げれば一日で100万人単位の視聴がされています。そういった人たちとは違った部分での私の使命感として、YouTubeはドローン少年の事件や、つまようじを商品に混入させる事件が配信された為に、昨今はあまり良くないイメージを持たれていますよね。YouTubeは悪いものが配信される場所、という偏見を払拭するためにも、真面目な使い方をしている人も多いというアピールをしていきたいです。
 最初は鳴かず飛ばずでしたが、半年も過ぎアクセスが少し伸びた頃から、子どもたちが直接届けてくる熱い声に救われました。以前、子どもたちに救われてこの業界に身を置きましたが、今もなお救われているんですね。私は教育は「恩返し」と考えていますが、毎日が恩返しです。始まりは教育実習で出会った女の子たち、今は大勢の子どもたちに受けている大きな恩を返すには、この場所しかないと手を抜かずに頑張っています。


今求められる三本目の柱に
 教育に関わっていて思うのは、私たちが学んだ頃より前には一本の柱、公教育だけで充分といった時代がありました。そのうちに塾のような二本目の柱、学校外の教育が必要とされた。そして今はそれでも足りず、三本目の柱としてこういった無料で学べる形が増えるべきだと考えています。私の他にも「manavee」という、大学生の無料授業投稿サイトが大きなものになっています。この三本柱で子どもたちを支える、そんな日本になってほしいと考えています。その先駆者となるために私はまず走りますが、私の後ろについて来る先生を増やすためにも、まず私がビジネスモデルとして成立し、ついて来られる環境作りをしたいです。そしていずれはそういった先生たちを束ねるマネジメントに携わり、教える技術の底上げ、向上を図りたいですね。
 中学生の皆さんには、人が何かに一心に取り組んだ時には、想像もつかない未来が待っている事を知ってほしいです。私の使命として「楽しく生きている姿を子どもたちに見せたい」という考え方があります。子どもには大人になりたいと思ってほしい。もちろん苦しいこともあるけど、踏ん張って生きる事で楽しい人生になるんだよ、と子どもたちには私の生き様を通して伝えていきたいですね。
 学校でも、新任の先生は情熱を持っていたのに、入った瞬間からしがらみや多忙の中で、情熱が先細っていく姿を目にします。純粋に子どもに教える事が好きなのに、保護者対応や教育委員会への提出物等、その他の仕事が増え心が萎えていくのは不幸ですよね。大上段から学校現場を変えるのは偉い人たちに任せますが、外から私のような存在が刺激する事で、いつか現場が変わらざるを得ない状況になれば面白いな、と考えています。
(構成/中込雅哉 写真/井田貴行)


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