第37回 クリエイティブ・ディレクター 馬場マコトさん

作家としては,書きたいものが貯まったときにしか書けない。だから「うんこ作家」と自分で呼んでいます。それでは本業とは言えませんね(笑)
「壊れたパーツ」だったからできたこと
 高校は毎年東大に三十人くらい合格するような進学校で,僕ら一人一人を商品としてしか見ていない教師ばかりでした。いい大学へ何人入学させたか,彼らの価値観はそれしかなかった。東大や国立大学に合格できる優秀な生徒をどれだけ生産できるかという目では,生徒のことは「優秀な商品」か「壊れたパーツ」のいずれかでしか見えない。生徒は彼らの出世のための道具でしかなかった。
 僕は「壊れたパーツ」だったから教師からはなんの興味も関心も持たれない。「壊れたパーツ」を直そうという気が彼らにはないから,干渉されることなく,高校生活を送っていました。
 さすがに自分も周りも少し大人になってきて,いじめられるってことはなくなっていました。反対に,同じ中学校出身のいじめていたほうのやつと仲良くなって,四人グループで購買部を作った。学校に購買部がありますよね。昔は皆が貧しい時代だったからか,貧しい学生の奨学金のような場でもあって,購買部を生徒が手伝い,学校がアルバイト代を出すというようなシステムがよくあったようです。それが僕の学校は生徒の完全な自治組織だったんですよ。学校から独立した学生自治会のほうに購買部を作って,僕らは串かつやコロッケを,どのようにしたら,いいものを,安く,かつ大量に売れるかを考えました。串かつ業者を三人呼んで見積もりをそれぞれ出させて,「その値段であと一切れ肉を多くしろ」とか結構ハードな注文を出していましたね。でも,売上もがんがん伸びるから,めちゃくちゃ面白くてね,次々にアイディアを出していったんです。パンの味の改善させようとか,女の子にたくさん来てもらえるようにしようと女の子専用コーナーを作ったり,女の子が買いにきたらこっそりコッペパンを付けてあげたり(笑)。今思うとマーケティング的なことをやっていたんですね。
 僕たち四人組は,学校から独立した「経営」をやっていたんですよ。当時のお金で毎月千円お給料をもらっていたし,売上が上がったからって学校にいれなきゃいけないわけじゃないから,余ったお金で校内にごミ箱を設置したり,夏は一銭も個人ではださずに,二週間も山でテント生活の合宿していました。その頃はいじめられっ子のポジションを取る必要がなくなっていて,「業者を競合させようよ」というようなアイディアを出すのが僕のポジションになってきていたんだね。
 それにしても,高校生なのに,串かつ屋のオヤジにキャバレーにつれてってもらったり,接待されたこともありましたね(笑)。今思うとオヤジにひどいことをしたかな(笑)。広告企画よりもマーケティングが好きなのはこの頃に体で覚えた事かもしれませんね。


変化が生きていることを実感させる
 「ちょっぴり山が好きな君,ちょっぴり文学に興味のあるあなた,一度私たちの会の空気に触れてみませんか」大学で手渡されたビラにあったこの言葉に惹かれ,「岳文」という山と文芸のサークルに入りました。山は,購買部資金で合宿をしていたころからの趣味でした。でも今度はそんな資金もないからアルバイトをしては二週間山に行き,帰ってきては次の山のために働く,その繰り返しです。
 当時は,学生運動の真っ只中でした。今,毎日に変化があると答える人は少ないでしょう。あの時代はこちらから変化を求めなくても変化は毎日やってきたんです。毎日がお祭りのようで,時代の風にあおられっぱなしで,なにもしなくても高揚していました。今でも新宿駅西口に行くと,デモだといってここに何万人も集まり,「新宿騒乱」というテレビニュースが流れることで,人波がさらにふくれあがっていくのを肌で感じていたことを,思い出します。
 そこに身を置かないとわからないかもしれないけれど,突然三島由紀夫が腹を切ったりすることが,他人事ではなかったんです。みんな自分が刃を付きつけられた気持ちだった。きざな言い方になるけど「あんたそこに生きてていいのかい?」と,アートも,文学も,政治も,全てが生きることを問うていた,突きつけてきた,そんな時代でした。
 毎日変化のある時代は,誰もジョギングなんてしないんです。エアロバイクなんて僕の周りでは誰もこいでいなかった。なぜ,今,ジョギングがはやって,それをシリアスに突き詰めてフルマラソンなんか走っちゃう人が増えているか。それは変化を求めているんだと思うんですよね。ことがおこらない時代だから自分でことを起こしに行く。
 若い子にはやっているタトゥやボディピアスなんかもそうでしょう。援助交際もそうなんじゃないですか。待っているだけでは何も起こらないから,自分からなにか仕掛けていくんだね。セックスを自分を商品化することで,「あんたそんなことやっていていいの?」と問われたいんでしょう。楽しくてやっている人なんていないでしょう。最初は,びっくりするようなお金がもらえたり,罪悪感や今までにない感情があったりしても,そのうち慣れて,また退屈になってしまう。若い子だけでなく,日常を打破したいという人だらけの世の中です。日常が平坦だと確実に自分で変化になりそうなものを仕掛けてくるのが,人間なのだと思います。


<<戻る つづきを読む>>
2/3


一覧のページにもどる
Copyright(c) 2000-2024, Jitsugyo no Nihon Sha, Ltd. All rights reserved.