第5回 イラストレーター 長尾みのるさん

人と同じことをやってちゃ、つまらないよ
心はいつもフリーター
 それからというもの、イラストレーターとしての仕事が殺到し始め、自然にアートディレクターの仕事は辞めざるを得なくなりました。その後、朝日新聞社から出した旅行記『ソンブレロは風まかせ』も話題になり、当時、同じアパートに住んでいた新人落語家の立川談志君の司会で日生劇場で出版記念会を開いたりもした。この『ソンブレロは風まかせ』は古賀政男作曲で、レコードにもなったりと、時代の寵児のようないわれかたもしました。長尾みのると名乗り、結婚詐欺をしでかす偽物まで現われたくらいです(笑)。ただ、ぼくの気持ちはどんなに売れっ子になっても変わらない。基本はフリーターなんです。フリーターなんていうと、眉をひそめる人がいますが、その精神が大切なんです。日本人はひとつの限られた分野だけを長年やることが尊いと思っている人が多い。小説の挿し絵画家だったらそれ一筋といったような人が偉いとされる。それではピカソを見てください。画家でもあるし、彫刻家でもあるし、陶芸家でもあるし、版画家でもある。
 ぼくは面白いと感じた仕事にはこれまですべてチャレンジしてきました。ファッションのデザイン、レコードやCDジャケットのデザイン、教育玩具のデザイン、インテリアのデザイン、たとえば日本コロムビアのメインホールの壁画のデザインもぼくの仕事です。昔と違っていまは寿命が長いですから、いろいろなことにチャレンジすることができるはずです。若い人たちにはさまざまな経験を仕事として生かせるようなプロフェッショナルなフリーターを目指してほしいですね。


自分らしさを大切にしたい
 ぼくが現在打ち込んでいるもののひとつに俳句があります。知り合いはそれを聞くとみんなびっくりする。なぜなら新しい物好きの長尾として有名ですから。個人として自宅に有線放送を引いたのも日本初なら、カラーコピー機を仕事場に入れたのも日本初。それぞれ新聞や週刊誌の記事になったくらいです(笑)。しかし、俳句というのは忙しいこの世の中、もっとも現代的な表現方法なんです。ただ、どうせやるなら新しいことをやろうと、『イメージの時間』という横書きの俳句集をイラスト入りで河出書房新社から出したんです。これはプロの俳人から文句が出るだろうと覚悟していたんですが、逆に好評でした。これからは俳句も国際化していく時代で、横書きの本はむしろ時代に合っているとほめられたんです。この時はうれしかった。ぼくがいま提唱していることは俳句には春夏秋冬という四つの季語があるんですが、新しい季語のようなものが必要になるということです。赤道直下で俳句をひねる人もいれば、宇宙パイロットが地球を眺めて一句ひねる場合も出てくる。地球をまるごと眺めれば春夏秋冬すべて入ってしまうし、宇宙船の中の季節は一体なんなのか(笑)。
 まわりからみれば変わり者と思われそうですが、自分らしさを大切にしながら、これからも仕事をしていきたいと思っています。
(構成・寺内英一/写真・藤田 敏)
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