超運動オンチだったマンガ家・みやすのんき氏が打ち立て、 53歳でサブスリーを実現した「大転子ランニング」とは?

2017.05.29

「大転子ランニング」で走れ!マンガ家 53歳でもサブスリー「走れ!マンガ家ひぃこらサブスリー

『やるっきゃ騎士』『冒険してもいい頃』『厄災仔寵』などの大ヒット作で知られるマンガ家、みやすのんき氏が上梓したマラソンの本が評判を呼んでいる。2015年末に『走れ!マンガ家ひぃこらサブスリー』、2017年1月には『「大転子ランニング」で走れ!マンガ家53歳でもサブスリー』を刊行し、いずれも何度も重版がかかっている。運動とは無縁だったというみやす氏が、なぜマラソンに挑んだのか。そして本を書くに至ったのか。たっぷり語ってもらった。

――マンガ家というと、その仕事の過酷さから、不健康、不摂生になってしまいがち、というイメージが世の中にあると思います。みやす先生もそんなだったのでしょうか?

多いときにはマンガを月産150ページも描いていましたから、外に出ることもなく暴飲暴食を重ね、身長168cmにして体重は85kgにもなっていました。子供のころから身体が弱く、駆けっこはいつもビリ、腰椎の骨折、膝の靭帯も切れていて、不整脈もありました。いままでマラソンの本を書いた人の中では、身体のスペックは間違いなく最低だと思います。それでも、練習を始めて1年半で、52歳でのサブスリーを実現しました。その考察をまとめたのが『走れ!マンガ家ひぃこらサブスリー』です。繰り返しますが、私に足が速い素質などはありません。ひたすら考えながら練習した成果です。

――考えることで、速くなるのでしょうか。

マラソンの指導者は、陸上競技の経験がある元選手や監督、つまり素質がある人ばかりです。速い人は、遅い人が何で足が遅いのかわからないのではないでしょうか。私はマンガ家なので、人体の動きの考察は得意です。どこをどう動かせばいいのかもずいぶんと試し、比較し、もっとも結果に結びついたものを積み重ねていきました。その経験を私と同じような足が遅い人に共有したいと思ったのが本を書くきっかけです。

――その結果が、既存の指導書への疑問と、ランニングフォームの追求になるのですね。

「日本人は骨盤が後傾しているから遅い」とか「腰高意識で走れ」とよく言われますが、その表現は間違いだと思います。次の図を見てください。A図とB図、どちらが速く走れると思いますか?


(『走れ!マンガ家ひぃこらサブスリー』より)

だれもがA図だと思うでしょう。こういうかっこいい走り方の写真はよく見ます。でも、このように後ろ向きに足を真っ直ぐ蹴りだすように意識すると、遅くなります。正しいのはB図。へっぴり腰にも見えるこの局面が大切で、着地した足をすぐに前に向かわせる意識が大切なのです。これは、トップランナーの筋出力データを見ると一目瞭然です。

――1冊目ではサブスリー(フルマラソンを3時間以内でゴールすること。全マラソン競技人口の3%未満といわれる)の高みを目指す方法論と練習法が細かに述べられていましたが、新刊では「大転子ランニング」と銘打って、身体の動かし方の説明により多くのページが割かれています。考察を重ねた結果が、この「大転子ランニング」なのですね。

1冊目の刊行後、「どうやってサブ4になれるのかということこそ知りたい」といった感想をいただきました。そこで、初心者やサブ4などの中級者向けの内容にしたのが、新刊の『「大転子ランニング」で走れ!マンガ家53歳でもサブスリー』です。「大転子」とは、骨盤の股関節につながる大腿骨外側の出っ張りの部分。多くの人は、足の付け根は骨盤の下にあると思っていますが、実際は股関節は骨盤の横にあります。ただ、そこは奥まって意識しづらいので、身体の側面で容易に手で触れることができる「大転子」をキーワードにしました。


(『「大転子ランニング」で走れ!マンガ家53歳でもサブスリー』より)

――具体的には、大転子を意識すると、どうなるのでしょうか。

大転子は、人間が歩いたり走ったりするときの、骨盤のランドマークになります。そこを意識して走ることによってランニングの効率が高めるのです。膝を高く上げようとせず、ストライドを無理にひろげようとせず、膝から下は地面を蹴らず、力も入れず、ただ足を置きに行く。そうすることで、人体に自然なランニングフォームを得られるのです。フォームがよくなれば故障しなくなります。たくさん練習できます。フォームの改善こそ、マラソンで速くなるための、ごく当たり前の近道なのです。

――走りながら意識するのでしょうか?

「スローシザース」と名づけた練習法を提案しています。初心者は、うまく地面の反発力を利用できず、もがくように筋肉で走り、すぐに疲れてしまいます。だから、足をひろげるのではなく、挟み込むように意識するといいのです。そうすると、地面の反発力を受け取れるようになり、楽に、軽く走れるようになります。ゆっくりと、「大転子」を意識しながら動きを作っていきます。


((『「大転子ランニング」で走れ!マンガ家53歳でもサブスリー』より)

――なるほど。「速く走る」練習ではなく、フォームを作ることで、結果的に速くなるのですね。そして、そのフォームは、大転子を意識しながら、ゆっくりと形を作るとよいのですね。

かといって、大転子を大きく動かすという意味ではありません。速度が上がるに連れ、小刻みなキレのある動きになります。完全に身に付いたら、地面を強く押す大転子ランニング「ガチ走りバージョン」の解説をイラスト入りでつけていますので、さらに大転子を意識した走りを完成させてください。

――そうした考察の積み重ねで、みやす先生は53歳、それもあと2日で54歳になるという日にも再度サブスリー、かつ自己ベストを実現したのですね。最後に、マラソンなどとんでもない…と思っている読者に一言お願いします。

やらない理由探しはたくさん思いつくでしょう。20代はランニングを始めてもすぐやめてしまう傾向にあり、意外と40代、50代から始めた人の方が長続きするという統計もあります。マラソンはオリンピックに出るレベルではない限り、生まれつきの素質よりも練習を継続できることが重要です。継続するのは大変で、努力や根性が必要と考えてしまいますが、そうではありません。根性や気合いというものは持続性がありません。継続するのに強い意志も必要ありません。大切なのはランニングを習慣化することです。それも徐々に、でいいのです。

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駆けっこはいつもビリの少年時代を過ごしていたのに、50歳を過ぎてから一念発起し、短期間でサブスリーを達成したみやす氏。前著・新刊ともに、その挑戦記も掲載されており、それもとにかく面白い。そして、考察のページでは、わかりやすいイラストを多数掲載している。本書を読んだら、走らずにはいられなくなるだろう。