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『水族館ガール』装画創作の舞台裏を公開! イラストレーター〈げみ〉さんインタビュー(後編)

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『水族館ガール』装画創作の舞台裏を公開! イラストレーター〈げみ〉さんインタビュー(後編)画像1
左は初回のラフ。「店頭でイルカがお客さんと目が合うようにしたい」という編集部のリクエストに応えてイルカを修正(右)
『水族館ガール』装画創作の舞台裏を公開! イラストレーター〈げみ〉さんインタビュー(後編)画像2
完成画(左)。「光と影で演出方法を考えながら色付けをしていきます。季節感や時間、気候などの空気感を意識して描き込んでいます」(げみさん)。西村弘美さんによるデザインを経て装幀完成!(右)
『水族館ガール』装画創作の舞台裏を公開! イラストレーター〈げみ〉さんインタビュー(後編)画像3
ジュニア版には20点以上の挿絵を描き下ろした。
『水族館ガール』装画創作の舞台裏を公開! イラストレーター〈げみ〉さんインタビュー(後編)画像4
製作中のげみさん。液晶ペンタブレットはCintiq 27QHDを使用。
NHK総合での連続ドラマ化で話題の『水族館ガール』シリーズ。シリーズ最新刊『水族館ガール3』(実業之日本社文庫)、ジュニア向けの『水族館ガール』(実業之日本社ジュニア文庫)も大好評発売中です。双方の装画のみならず、ジュニア版向けに本文挿絵を多数描き下ろした人気イラストレーターのげみさんに、『水族館ガール』への思い、作品が生まれるプロセス、イラストレーターとして心がけていること等々、創作の舞台裏を伺いました。

『水族館ガール』がきっかけで仕事の幅が広がった

――デザイナー・西村弘美さんと、『水族館ガール』のジュニア版の装幀の方向性を打ち合わせたとき、げみさんからすぐ「浮遊感」というキーワードが出ましたね。あの場でひらめいたのですか?
げみ はい。打ち合わせではいつも、思いつくものを自分の中に留めずに全部吐き出すようにしています。冗談みたいな案でも何かにつながる瞬間があるので、笑い話をするような感覚で。

――装画を描くにあたり、作品のテキストは読み込みますか?
げみ 読みますが、内容を頭に入れるというより、小説の「色」のようなものを見ます。読後感は灰色なのか、鮮やかな色なのか。『水族館ガール』は何回読んでも、青い水に青い空、という爽やかな印象でした。実は、この依頼を頂くまでは、僕は暗い色調の絵ばかり描いていたんです。青い空、白い雲を描いたのも初めてで。『水族館ガール』をきっかけに、明るい絵も求められているんだと気づき、幅が広がりました。

――げみさんが「灰色」だと感じても、「赤で」と依頼されることもありますか?
げみ 読んでみると暗い話だけれど、明るい色調の方が売れるからそうしてほしい、というようなことは、たまにはあります。

――げみさんは、そうした依頼にも応えていますか?
げみ そうですね。「こんなのが食べたい」と依頼されたら、「わかりました。美味しいものを出しますね」と応えたいです。たとえば「しょうゆラーメンが食べたい」と頼まれたら、素材から選んで出汁をとって、試行錯誤しながら調味料も調合して「これでどうですか」とカウンターに出します。その段階で「やっぱり味噌ラーメンにしてほしい。このラーメンに味噌入れてくれたらいいよ」と言われることも時々ある。そんなときは「いや、このベースに味噌は合いませんよ」と言うのもイラストレーターの仕事だと思っています。
完成品にはそこまでのプロセスがあるので、色だけ変えれば美味しい味噌ラーメンになるかというと、それは違うと思うのです。ただ、基本的にはどんな依頼にも「美味しいものを出します」と応えたいですね。僕はなんでも美味しい料理が食べられる街の定食屋を目指しています。

イラストレーターは「翻訳家」に近いもの

――話は変わりますが、尊敬している画家やアーティストはいますか?
げみ そうですね……僕はどんな人の作品でも発言でも、良いものは良いと感じるので、「存在全てを尊敬する」という感じではないのですけれど、オルタナティヴ・ロックバンドthe pillowsのボーカルの山中さわおさんは好きですね。

――山中さんのどのあたりが好きですか?
げみ 僕と真逆なところです。僕は環境に応じて自分を変えられるけれど、山中さんは自分のやりたいこと、いいと思うことを信じて25年以上真っ直ぐに自分のボールを投げ続けている人です。すごく強いアーティストです。その姿にファンがついて行くってとってもかっこいいと思います。僕は反対に受け取ってくれるようなボールは投げられるけれど、受け取ってくれるかわからないボールを投げることは苦手です。キャッチボールしかできません。自分には真似できないから、憧れるし、尊敬しています。
イラストレーターはアーティストではなく、翻訳家に近いものだと思っているので、仕事を受けた後「僕はそれは描きたくない」とか「作者に共感できない」と自分の感情優先で描こうとすると、絵の良し悪しは別として、イラストレーターとしてはやっていきにくいと思うんです。そう思うと、この仕事は天職だなと思っています。どうすればいいキャッチボールが出来るのか、そのあたりの事をよく考えています。

仕事と、オリジナル作品と

――げみさんは、イラストレーターとしてひっぱりだこです。仕事をする上で、とくに意識していることはありますか?
げみ 意識……そうですね、一番は「どんな事でもいいところを見つけよう」ということでしょうか。小説は、絶対どれも面白いはずなんです。作品がそれぞれ持つ「面白さ」を受け入れられるか、苦手だと感じるかは、自分次第だと思うんですよね。小説に限らず、あらゆる遊びに対して「それぞれ楽しいところがあるよね」という気持ちで普段過ごすように心がけています。依頼されたもの描くにあたって、好みの幅を広げておくのは重要なので。

――仕事で嫌な気持ちになったときは、どうしていますか?
げみ 基本的に、あまり気にしないようにしています。嫌なことがあってもイラストレーター仲間とご飯食べに行って「こういうことがあった」「みんなそうだよね」と話せば気持ちが軽くなります。自分がぶつかる問題は、自分だけの問題ではないことが多いので。

――いい精神状態をキープするのは大事ですよね。
げみ アートの世界では、自分の心(好きや嫌いや主張など)を全面にさらけ出していい作品が生まれることもあるでしょう。でもイラストレーターはちょっと違うと思う。「自分」をぶつけているだけじゃダメだなと。といっても自分を隠し続けるのもストレスですよね。
だからイベントにでてオリジナルを定期的に作っては発散しています。
いつも心が元気で健康だという人はあまりいないですよね。自分の心が健康ではないときでも、健康的な作品を求められれば作るのが仕事だと思いますが、それはかなりストレスがかかります。だから極力心は健康でいられるようにしたいです。そのためには、苦手なものは少ない方がいい。
さっきの話とも通じますが「いいところを見つけて楽しもう!」といつも意識しています。

★インタビュー前編はこちらから!★