第33回 食生活ジャーナリスト 岸 朝子さん

『栄養と料理』から一緒にやってきたスタッフもいます。テレビにも出ますが,今でも現役の「料理記者」です。
食べ物に関心をむける
 小学生の女の子に,大人になったらなりたいものはと聞くと,「食べ物屋さん」が一番多いんですね。第一生命のアンケートによると,平成九年から六年連続「食べ物屋さん」が一位だそうです。食べ物に関心があることが,うれしいですね。
 『栄養と料理』を辞めたあと,食品,料理に関係する企画の編集プロダクション「エディターズ」を立ち上げました。たくさん食べ物の記事を作っていくなかで,ある日,フジテレビの人から「料理の鉄人」という番組を作るので協力してもらえないかという電話がかかってきました。鉄人にふさわしい人を紹介してほしいとのお話だったので,以前取材していた人たちのなかから,和食の道場六三郎さんをはじめ鉄人のかたがたをご紹介いたしました。最初は代役として,ちょうど古希でもあったので記念として,一回だけというお話で審査員として出演したのですが,それがレギュラー出演になり,結局平成五年から六年間も続いたんです。七十歳になって急に有名になってしまいました(笑)。
 道を歩いていても,電車に乗ろうとしても,どこでも声をかけられるようになりましたが,「おいしく食べて健康に」ということを,いろいろなところで伝えられるようになりました。日本人の食べ物への関心が高くなってはいますが,食事が人を作るということがもっと理解されるようになってほしいと思っています。

楽しくおいしく健康に
 ワインに関する文化活動をした人にオーストリア政府が贈るバッカス賞を,平成十一年にいただきました。日本人初,女性初,ジャーナリスト初という「初」尽くしの受賞だったそうです。世界で一年に二人受賞するのですが,一緒に受賞した男性俳優の方は自宅のワインセラーに数千本のワインを持っているとおっしゃっていました。
 私はそんな数はとうてい持っていませんが,初めて飲んだワインは覚えています。マティウスと
いうポルトガルのワイン。飲みやすい味で世界のベストセラーワインだそうですよ。お酒を飲み始めたのは主婦の友社に入ってからですから,飲酒歴イコール「料理記者歴」。おいしい料理とそれにあうお酒を見つけるのも楽しいですね。
 私の姉は,尚道子といってNHKの「今日の料理」に長く出ていた料理研究家でした。子どものお弁当の定番になっているタコの形に切っていためたウインナー「タコさんウインナー」は,姉が考え出したものなんですよ。ウインナーはそのまま入れるとつかみにくい。タコの形にすると子どもでも食べやすいし,お弁当の中に変化も出る。食べ物を楽しく工夫するのが,私も姉も好きなんでしょう。
 家族そろって食事をすることや,家で料理することが減ってきてますね。食べ物をおろそかにするとそれは人生をおろそかにすることにつながると心配しています。栄養のことだけを難しく考えなくてもいいんです。いろんな種類のものをバランスよく食べる。おいしいものを食べる。どうやったら自分がおいしく楽しく食事ができるかを考えれば,それはちゃんとしたご飯になるはずです。金太郎飴のように何度も何度も伝えたいのは「おいしく食べて健康に」ということ。昔,父が言っていたように,食べ物はひとまかせにはできませんね。
(構成・写真/石原礼子)
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