第3回 写真家 秋山庄太郎さん

笑わないことで有名な川端康成が笑ってくれた
写真家人生に悔いなし
 若い頃は女優専門の写真家とも言われました。確かに日本の女優の八割は撮っていると思いますが、五十を過ぎてからは川端康成から佐藤栄作まで、男もたくさん撮りましたね。これが結果的によかった。若いうちはどうしても偉い人の前では畏縮してしまって、自然に撮影できないですからね。相手と対等になってこそ自然な表情が撮れるんです。だだ、最近は作家も政治家も役者もみんなぼくより後輩になって、向こうが畏縮して堅くなってしまう。これには困りますね(笑)。尾崎一雄さんの葬式にはぼくの撮った写真が遺影として飾られたんですが、丹羽文雄さんが「あんないい尾崎の顔を初めて見た」と雑誌に書いてくれていて、これはうれしかったですね。川端さんも笑わないことで有名な人でしたけれど、ぼくの撮影の時には笑ってくれましたからね。
 好きな写真だけ撮ってきましたが、写真家になって人生、悔いなしですね。八十歳にして現役で仕事ができるんですから。これも健康にしてくれた母親のおかげです。毎日、ピース三箱吸って、お酒も欠かさず飲んでいるんですが、なぜか元気なんです。長生きしたおかげで宮中でタバコとまんじゅうまでもらえましたから(笑)。三木のり平さんと一緒だったんですが、ぼくはもらったまんじゅうをすべて助手たちにあげてしまった。しばらくしてのり平さんに会った時、「どうした、あれ?」と聞くと「冷蔵庫に入れた」と言う。「あれを薄く切っては、ちょっとこれは天皇陛下にもらったお菓子だぞといって来客に食わしているんだ」と。いかにものり平さんだなと思っておかしかったですね(笑)。

プロの写真家は毎日が勝負
 写真家を目指す人にアドバイスをするとすれば、売れる写真を撮りなさいということですね。言い方を変えるならば、客観的に自分の写真をみつめなさいということです。自分ではどんなにいい写真だと思っても、第三者が認めて買ってくれなければプロにはなれません。
 また、しっかりとした技術を身に付けることも大切です。アマチュアなら一年間撮りためた写真の中から一番いいものを一枚選んで展覧会に出品すればそれでいいわけですが、プロはそうはいきません。原稿料をもらっている以上、失敗は許されません。写真で食べていくということはたいへんなんです。それでも写真が好きで好きでたまらない人はぜひがんばって目指してください。最後は情熱ですよ。
 ぼくがいま取り組んでいるのは、この五十五年間に撮った写真の中から気に入った写真ばかりを千点集めてポストカードを作ろうということです。これまでに千点ものポストカードをつくった人は世界にもいないでしょう(笑)。気が遠くなるような膨大な作業なんですが、なんとか三年以内には完成したいとがんばっています。
(構成・寺内英一/写真・藤田 敏)
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