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果たして東京五輪で使用可能に?市民マラソンの動向は?サブスリー漫画家がナイキの厚底シューズは規制問題の本質を突く!

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アルティメットフォアフット

ナイキの厚底シューズ、「ヴェイパーフライ4%」「ヴェイパーフライNEXT%」に適した走法を徹底研究し、56歳にしてサブスリー、…どころか自己ベスト記録2時間53分を叩き出したマンガ家のみやすのんきさん。その研究と成果は『アルティメット フォアフット走法 56歳のサブスリー! エイジシュートへの挑戦』で詳述されているが、2020年1月中旬、世界陸連がこのシューズを禁止する可能性が一斉に報じられ、ワイドショーなどでも取り上げられた。
そのあたりを、みやす氏に聞いてみた。

--英国のネットニュースで立て続けに「禁止か?」との報道され、日本でもお茶の間のワイドショーで「フォアフット走法」や「ヴェイパーフライ」という言葉が飛び交いましたね。

みやす氏 目前に東京オリンピックを控える世界中のマラソンの代表候補選手から見れば大変迷惑な話でしたね。スポーツは科学技術の発展と共に、用具や器具の素材の改良で、パフォーマンスを飛躍的に向上してきたのは歴史が証明してます。一部の契約選手が履くオーダーメイド品ならまだしもヴェイパーフライシリーズは市販されているシューズですから今さら記録抹消や使用禁止はありえないと思っていました。

--一方、昨年10月に男子の世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ(ケニア)がナイキの非公式レースINEOS1:59で、人類初の2時間切りを出した際に履いていたアルファフライ(プロトタイプ)については、カーボンプレートが3枚使用されていたと言われています。

みやす氏 もしそれが本当ならやり過ぎな感があります。器具スポーツに傾き過ぎないように市販品には一定の基準は設けた方がいいかもしれません。アルファフライの市販品は2月末に海外で発売予定ですが、カーボンプレートも1枚で厚底も世界陸連の規定通りの40ミリ以下です。この短期間に内部構造を簡単に修正できるはずはないので、実はプロトタイプが3枚というのはフェイクで、INEOS1:59の時からプレートは1枚だったのかもしれませんし、プロトタイプとは別に1枚プレートの市販仕様を並行して作っていたのかもしれません。ただ市販品はあまりに世界陸連の規定通りのためにナイキとの出来レースを疑ってしまいますね。いずれにせよ、日本ではお茶の間のワイドショーまで報道が拡大して厚底シューズを知らない層にも広める効果がありました。

--市民マラソンまで問題は波及しますか?

みやす氏 市民マラソンといっても皆ファンランという訳ではなく、自己ベスト記録の更新を目指して真剣に走っている人も多いです。より速いシューズを履いてタイムが出るなら、履いてみたいというのが人情です。しかし禁止かどうか揺れたシューズですから、割り切れない感情を持たれるランナーもいるでしょう。アルファフライの供給が安定するのはまだ先の事でしょうし、品薄状態は続くと思われるので、入手できない不公平感や転売の高騰の危険性も出てくるかもしれません。

--ワイドショーでよく聞かれたのが「厚底シューズはカーボンプレートで反発させるから速い」というコメントです。それについてみやすさんは、どのような印象を持っていましたか。

みやす氏 薄底シューズは地面を蹴り出せるようにつま先が曲がるように作ってありますが、ヴェイパーフライは逆の発想で前足部に仕事をさせないように曲がらないように作ってあります。それがカーボンプレートの主な役割で、前足部ほど地面に近づくように湾曲しているのもふくらはぎの負担を軽減します。

--カーボンプレートが反発しているわけではないと?

みやす氏 はい、主に反発するのはズームXという発泡ゴムのようなミッドソール材です。その間にカーボンプレートを挟み込んで前足部の着地のブレを軽減し、足裏の動きをガイダンスさせたところがナイキの斬新なアイデアだと思います。

--ヴェイパーフライシリーズは「ふくらはぎを痛める」また「履きこなすには太ももなど筋トレが必要」ということも聞きます。

みやす氏 今までの薄底シューズのように地面を蹴り出す走りをしていたら、実際には蹴れないのでふくらはぎに負担を掛けるような走りになっている可能性はあります。新たな筋トレは必要かということですが、男女問わず市民ランナーでも薄底シューズから履き替えて、一発目のレースでも最後まで足が持って自己ベストが更新されたという報告が多数あります。ヴェイパーフライのためにわざわざ筋トレを開始する必要もないと思います。ケニア人トップ選手がヴェイパーフライを履きこなすために筋トレをやっている映像も見たことありません(笑)。

--ではヴェイパーフライシリーズは誰でも履きこなせるのでしょうか? 速く走れるエリート選手のみがその恩恵を享受できるという話もまことしやかに伝わっています。

みやす氏 誰でも……というのは言い過ぎですが、走り方さえ気をつければ筋肉が弱いとされる女子選手、体重が重い男性ランナーなどすべてのランナーに恩恵があるはずです。キロ3分前後で走る選手のみにスイートスポットがあるというのが間違いなのは多くの市民ランナーの記録向上からも証明されています。

--ヴェイパーフライシリーズを履きこなすにはどんな走り方をすればいのでしょう?

みやす氏 初めて履くと反発に感動しますが、それに酔いしれてストライドをひろげようとしてはいけません。着地衝撃が強くなり、上体のバランスも崩れて力みも出てしまう。マラソン後半で前の太ももが重たくなってしまうランナーはその理由が大きいと思います。そこであえて足の高回転を意識します。そうすると薄底シューズとほぼ同じピッチでストライドが若干伸び一番経済性が高くなります。

* * *

テレビやネットのニュースでは、煽るような、時には否定的な見出しが躍りますが、マラソン競技を正しく理解するためには、それらを鵜呑みにせず、厚底シューズ「ヴェイパーフライ」シリーズとマラソンの走法を分析することが必要です。

フォアフット走法が、ヒールストライク(踵着地)走法やミッドフット着地とどう根本的に違うのか、なぜその走法が選ばれるのか。『アルティメット フォアフット走法』で豊富なイラストとグラフで考察されていることは、ランナーの皆さんの走り方に必ずや資することでしょうし、また、競技を応援している皆さんがご覧になれば、厚底シューズを履いている選手たちの足の動き、身体の動きを理解しながら鑑賞できるようになります。

ランナーも鑑賞者も、正しく厚底シューズとフォアフット走法を理解して、いよいよ注目が高まるマラソン、そして東京オリンピックを待ち受けましょう。