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ブルーガイド編集部

ドイツのデザインと建築を巡る旅

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「デザイン都市」――この言葉をご存知でしょうか? これは、ユネスコのプロジェクトの一環である「創造都市ネットワーク Creative Cities Network」が取り決めたもの。2013年現在、ブエノスアイレス、ベルリン、モントリオール、神戸、名古屋、深セン(土へんに川)、上海、ソウルの8都市が、デザインに特色のある都市としてこのカテゴリに認定されています。

そこで今回、ドイツ政府観光局並びに各都市の観光局の方のご案内のもと、デザイン都市ベルリンの世界遺産建築やバウハウスゆかりの地、また、生誕150周年のメモリアルイヤーであるベルギー人建築家ヴァン・デ・ヴェルデの足跡などを辿る旅に参加してまいりました。

今年はグリム童話誕生200周年や作曲家ワーグナーの生誕150周年でもあり、来年は同じく作曲家のR. シュトラウスの生誕200周年と、ドイツ国内ではメモリアルイヤーイベントが目白押し。ドイツを訪れる旅客数も毎年増え続けているなど、話題が尽きません。

それでは、そんな魅力あふれるドイツの美しきデザインの数々を紹介していきましょう。

あまりにも奇抜!? 評判のデザインホテル【ベルリン】

まずお見せしたいのは、今回泊まったベルリンのホテル。

音楽家ラーズ・シュトロシェン氏が手がけた「プロペラ・アイランド・シティロッジPropeller Island City Lodge」は非常にユニークな建物。部屋ごとに名前を付け、それぞれコンセプトを変えたデザインホテルです。
元々は音楽活動のための資金を捻出するため、自身の住居だったアパートの部屋を改造、貸し出すことにしたのがこのホテルの始まりだったそう。しかしその奇抜なデザインが世間の脚光を浴び、逆に彼は音楽活動のための時間を取ることができなくなってしまったのだとか。

とはいえその甲斐あって、ホテルは人気物件へと成長。各部屋にはこだわりの音楽が流れるチャンネルスイッチとスピーカーが設置されていたり、フロント業務は午前中のみのため、午後以降のチェックインは各自で行ったりするなど独特ですが、慣れればとても気楽で過ごしやすいホテルだといえるでしょう。


(左)「Hollywood」はカラフルな内装がなかなかキュート。二段ベッドも互い違いでオシャレです。しかし浴槽は、赤く着色されているとはいえガラス張りのため丸見え……/ (右)「Chicken Curry」は和室チックで靴を脱いで上がるタイプ。こちらの部屋は撮影スタジオにもなるそうで、蛍光灯が壁から天井から一面に20本近く設置。枕側の壁には撮影背景用のロール紙も常時セット

部屋のベッドマットにはテンピュールが使われているようで、寝心地は最高! それぞれの部屋ごとにお風呂のタイプや使い勝手がかなり違いますが、ホームページを参考に好みのデザインを探すのも楽しいですね。
http://www.propeller-island.de/


(左)カラフルなネオンの外観。大通りから少し中に入るので静かな立地/(中)「壊れてません。アートです」との注意書きのついた、音楽チャンネルの説明額縁/(右)この日のフロント担当、アニエシュカさん。朝食の用意なども兼務する

デザイン都市に遺る住宅群を訪ねて【ベルリン】

さて、それでは今回の旅の目的、建築物を訪ねることにしましょう。
まず向かったのはベルリンにある世界遺産の1つ、「ベルリンのモダニズム集合住宅群」に含まれるグロースジードルング・シーメンスシュタット。

建設開始時はまさに世界恐慌が起こり始めたころ。ベルリン中心部は人口が増えすぎており、新しく何かを造るには外へ外へと土地を求めなければなりませんでした。そんなおり、「シーメンス」(日本でも補聴器などで有名なメーカーですね)が工場を造ったのはベルリン北西部。中心からは少し離れたこの地に、通勤の便を図るため住宅や病院、商店などを工場近くに建設し「シーメンスの町(=シュタット)」として造成したのです。

大きい住宅(グロース・ジードルング)というだけあり、この集合住宅内の戸数は1370あるそう。各戸は2~3部屋から成り、キッチンやトイレ、風呂、セントラルヒーティングも完備。これは当時の住宅としてはかなり画期的なもので、以降の集合住宅設計に対し大きな影響を与えたといわれています。

この住宅の設計を主に手がけたのはハンス・シャロウン。後にベルリンフィルのコンサートホールをデザインしたことでも有名なドイツの建築家です。ちなみに、「ベルリンのモダニズム集合住宅群」として登録された住宅はベルリンに6カ所あり、他の建物もブルーノ・タウトやマルティン・ヴァーグナーら名だたる建築家が設計や建設に携わっていました。

一人暮らし向けにはワンルームの住戸も用意され、現在でも年配の独居の方が「手頃なサイズだ」ということで住んでいらっしゃるとか。また、煉瓦を使って建設されているのも特徴的です。

リビングは日光がよく当たるよう南または西側に配置され、必ず庭に面する向きで光を確保しています。住民のみなさんは、バルコニーで植物を育て、リノベーションしながら楽しく住まわれている様子。100年近く経ったデザインとはとても思えない、モダンで気持ちのいい空間です。


(左)西に面したバルコニーは優雅な曲線がモダンな雰囲気/(右)その向かい側の建物を東面より。開放的な庭と、差し込む日光がのどか

続いて向かったのはハンザ・フィアテル。ベルリン中心部ティアガルテン近くにある住宅地です。このエリアは第二次世界大戦で破壊されましたが、「展覧会に出品する建築物を街に実際に造ってしまう」という国際建築展 Interbau が1957年に開かれることにより、戦後に再開発の街造りがなされたのです。

このときは13カ国50人以上の建築家が参加し、大小取りまぜた個性的な建築物が作られました。60年近く経った今もそびえ立つ住宅群は現在、文化財保護指定を受けています。一覧表とマップの案内板が道路脇に置かれているので、対照しながら眺めてみるのもいいでしょう。


案内板。だいぶ風雪にさらされたようで傷がついていますが……


(左)エリア内に点在する住宅群。左はオスカ・ニーマイヤー、右はファン・デン・ブロークとバケマのデザインによる/(右)こちらの薬局も当時建設されたもの。国旗マークの左端に記された「Interbau」という文字が往時を偲ばせます

一大デザインフェス「DMY」【ベルリン】

さて、それではこの時期ならではのイベントを紹介しましょう。
「DMY(国際デザインフェスティバルベルリン)2013」は、今はもう使われなくなったテンペルホーフ空港跡地で開催されている展覧会で、6月5~9日に開催されました。去年は名古屋市が招聘され、さまざまな名古屋のデザインプロダクツを展示していたそうですが、今年はポーランドのデザインをフィーチャー。会場の一画にコーナーが設けられていました。


(左)入場者は入口でリストバンドをつけてもらいます/(中)会場の外側はかつての駐機場。広大です/(右)軽食コーナーやDJブースもあります

デザイン関係者以外にも地元の住民が気軽に子連れで来ており、来場者の顔ぶれも幅広い様子。出展者もビールを飲みながらブースを受け持つなど、形式張らずかなりのリラックスムードです。

2万平方メートルもの広い会場には、食器やキッチンツールから椅子や照明などのインテリア、また、BMWやベンツ、アウディなどの車まで多種多様なデザインプロダクツが勢揃い。その数に圧倒されました。




会場を飾るデザインの数々。圧巻のひと言!

郊外に新たな魅力が増加中!【ライプツィヒ】

続いてはライプツィヒ。日本人にもよく知られたこの都市は、ザクセン州で最も大きな街です。もともとバッハやシューマン、メンデルスゾーンといった音楽家に縁がある土地柄に加え、印刷技術がこの地で発展し美術面の成長に寄与したことから、芸術の街としても知られるライプツィヒ。現在はその芸術発信の場が郊外へと移り、さらに進化を続けているのです。

中心部から3kmほど西へ進んだところにあるプラークヴィッツ地区は、最近個性的なショップなどが増え、人気となってきているエリア。かつてヨーロッパ最大規模といわれたライプツィヒ紡績工場があったところです。20年ほど前に工場の操業自体は停止しているのですが、工場跡地や、かつて従業員が住んでいた周辺住宅などに芸術家が集まるようになりました。

工場跡地の一部はシュピネライという芸術文化施設へと変貌。ドイツ人画家ネオ・ラオホらに代表される「新ライプツィヒ派」と呼ばれる絵画の一派の拠点としても有名で、そのほかにもギャラリーや工房、画材店などが入居。敷地内にはこだわりのインテリアでデザインされたホテルまでもが揃う、ヨーロッパ中から注目を浴びる地区へと発展していったのです。
http://www.spinnerei.de


「シュピネライ」とは「紡績工場」の意味。工場時代の資料も一部展示されていますが、エリア内の大多数を占めるのはギャラリースペース。ほかに、写真のような図書館的なスペースやアウトドアシアターなどもありました

ライプツィヒ中心部にももちろん、芸術を堪能できる場所があります。楽器博物館、工芸美術館、文化人類学博物館の3つを兼ね備えたグラッシ博物館です。特に楽器博物館は、ヨーロッパで2番目の規模を誇るコレクションを有しているといいます。マルクト広場から徒歩15分ほどで行けるためアクセスが便利なのが嬉しいところです。
http://www.grassimuseum.de/


取材当時のグラッシ博物館では、2013年度グラッシ博覧会が開催中。陶芸、ガラス製品、家具、照明、食器、電化製品、おもちゃなど時代に沿って展示されていました。右の写真は、この後紹介する建築家ヴァン・デ・ヴェルデ作の花瓶。彼の才能の多彩さが光ります

バウハウス発祥の地【ワイマール】

次に紹介するのはワイマール。ここからは建築家アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデの足跡を辿っていきましょう。
1863年にベルギーで生まれたヴァン・デ・ヴェルデ。画家を目指しパリに留学したのち住宅設計に携わり、ドイツへと渡ります。そして当時のザクセン大公に芸術顧問として招かれ、1902年から15年間ワイマールで暮らすのですが、これは彼が芸術活動に最も集中していた時期だったといわれています。



(左)取材当日は新美術館にて「アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ展」が開催中でした/(中)アジアの芸術にも影響を受けたというヴァン・デ・ヴェルデ。彼のデザインした額縁に収まっているのは喜多川歌麿と歌川豊国の絵/(右)天皇陛下も訪れたことのある五ツ星ホテル、エレファントの玄関真上では彼の像が広場を見下ろしています

ワイマールに来た彼は、まず工芸ゼミナールを設立します。この学校こそが、バウハウスの基礎となったもの。ドイツを離れることになったヴァン・デ・ヴェルデから学校の運営を託されたヴァルター・グロピウスが1919年、この学校をバウハウスとして開校することになったのです。当時の校舎は今でもバウハウス大学本部棟として使用されており、世界遺産に登録されています。

各国からの留学生も多く、日本人留学生も数名いるとのこと。この日はカナダから留学中の学生さんがガイド役として内部見学の引率をしてくれました。

本部棟外装に見られる窓枠の曲線のように、得てしてヴァン・デ・ヴェルデのデザインには流線ラインが特徴的な美しさを誇っています。
http://www.uni-weimar.de/



(左)本部棟。窓枠に注目/(中)内部の階段。らせんが描くラインの美しさといったら! 場所によっては壁面に、バウハウスおなじみ、赤青黄3色のペイントが/(右)「グロピウスルーム」と呼ばれる部屋。机に比して座面が高かったり背もたれが低かったりと、独特なデザインがちりばめられている

ワイマールにはほかにも、過去にヴァン・デ・ヴェルデ自身が設計し住んでいたホーエ・パペルン Hohe Pappeln やバウハウス美術館などの見どころがあります。ベルリンにもバウハウス資料館があり、そちらもコンパクトに展示がなされていますが、こちらの美術館も小さいながらも収蔵物は多く、見応えがあります。ただし2015年には新美術館への建て替えが決まっているとのこと。さらなる充実が期待されます。



(左)ホーエ・パペルン内部。家の中央にリビングを配置するのは当時としては珍しい設計だったそう。らせん階段のデザインはやはり彼らしい http://www.klassik-stiftung.de/index.php?id=88 / (中)バウハウス美術館は中心部のマルクト広場からも近い http://www.das- bauhaus-kommt.de/ausstellung.php / (右)こちらはベルリンのバウハウス資料館。外観のデザインが特徴的 http://www.bauhaus.de/

知られざる魅力が満載の街へ【ケムニッツ】

最後に、まだまだ日本人にはなじみのない街、ケムニッツ Chemnitz を紹介しましょう。「わがまま歩き ドイツ」本誌でも初掲載したこちらは、ライプツィヒから快速電車で1時間ほどの距離にある、ザクセン州で3番目に大きな都市です。旧東独時代には「カール・マルクス・シュタット」と称されていました。

そもそもは産業革命の時代に工業都市として発展した街。第二次世界大戦で街の中心部は壊滅状態となってしまいましたが、東西ドイツ統一以降に着手した再開発により、近代建築と現代が交じり合う魅力的な街となっていったそうです。

東独で隆盛を極めたこの産業の歴史は、産業博物館で垣間見ることができます。紡績機を実際に動かしての糸撚(いとより)見学や、雑貨パッケージから車に至る懐かしい東独製品の展示、また、変わったところでは手動のボウリング設備など、ノスタルジーも感じられる施設です。
http://www.saechsisches-industriemuseum.de/_html/www/chemnitz/home.htm




紡績機や蒸気機関車など、東独時代の産業製品類がテーマごとに展示されています

産業博物館のあるカスベルク地区に隣接したエリアには、オペラハウスやペトリ教会、文化会館ダスティーツ、グンツェンハウザー美術館など特徴ある建造物も多いので、市電などを使い、あたりを回ってみるのもいいでしょう。

この地にもヴァン・デ・ヴェルデゆかりの建築物があります。彼が設計した住宅、ヴィラ・エッシェです。建物だけでなく、照明の装飾やベランダの柵の模様まで細かくデザインするというこだわりが随所に見られるこちらの施設、現在は結婚式などができるイベントホールとヴァン・デ・ヴェルデ博物館を兼ねており、裏手にはこぢんまりとしたレストランも併設されています。
http://www.villaesche.de/


ヴィラ・エッシェは小高い丘の上にあるため見晴らしもよい。吹き抜けのホール、天井のステンドグラスやドアノブの意匠などどれもが緻密な計算の元に造られている

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ヴァン・デ・ヴェルデに縁の深いチューリンゲン地方とザクセン地方では、彼の生誕150周年を祝い、各地で展覧会などを開催しています。これから見られる主な関連イベントは以下のようになっています。各イベントの詳細その他についてはホームページでご確認ください。

http://www.vandevelde2013.de

ワイマール
アール・ヌーヴォー in ワイマール(ガイドツアー):通年。要申し込み
ヴァン・デ・ヴェルデ ガイドウォーク:毎週土曜。要申し込み

ビューゲル
アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデとアール・ヌーヴォー陶芸展:9/23まで

イエナ
アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ展:9/1~11/24
アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデとイエナのバウハウスアーティストたち(ガイドツアー):通年。要申し込み

ケムニッツ
アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデとエドヴァルド・ムンク展:9/8まで
http://www.kunstsammlungen-chemnitz.de

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ドイツ政府観光局が取り組む来年度のドイツ観光テーマは「世界遺産」(http://www.germany.travel/unesco)。
日本人旅行客の92%がドイツ国内で世界遺産観光をしているとの統計も出ているそうですが、今年新たにカッセルのヴィルヘルムスヘーエ・ベルクパルクが世界遺産に登録(富士山と同時)されたことも、さらにドイツが人気の旅行先になっていく一因となるかもしれません。

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