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木内恒人

本屋さんの読書日記 [八重洲ブックセンター 丸井柏店 木内恒人さん]

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月刊J-novelで連載している人気コーナー「本屋さんの読書日記」。毎月、全国の書店さんに最近読んだ中でオススメの本を紹介いただきます。今回は八重洲ブックセンター 丸井柏店 木内恒人さんの登場です。

八重洲ブックセンター 丸井柏店 木内恒人さん
「男たちの生きざまに胸をうたれる」

○月○日 堂場瞬一『BOSS』(実業之日本社文庫 680円)
ここ最近のアメリカ大リーグでの日本人選手の活躍は目を見張るものがあるが、本書はその先をいく、日本人初のGM(ゼネラルマネージャー)の話。GMとは選手・球場・ファンサービス、その他すべての球団運営に関わる事柄に責任をもつ重要な役職で、大リーグのそのポジションに日本人が就任、という設定だけでもひとりの野球ファンとしては喝采を送りたくなる。しかし、単なる野球小説ではなく、上司がいかにして自分の組織を束ね、成功に導くか、という経済小説の側面も併せ持っていてそちら側の駆け引きも相当なリアリティをもって語られている。

○月○日 武論尊『原作屋稼業 お前はもう死んでいる?』(講談社 1260円)
国民的マンガ『北斗の拳』の原作者、武論尊の自伝的小説。さぞかしカッコいいハードボイルドな半生と思いきや、主人公は何をやっても中途半端な29歳「ヨシザワ」君。彼がたまたま同じ飲み屋にいたマンガ原作者・武論尊先生に弟子入りする、というところから話は始まる。
つまり、主人公の師匠役が作者本人、というちょっと変わった小説。であるので、出てくる出版社なども実名ぎりぎり、これがまた、日本を代表する出版社(の大編集者)か? と思えるほどの乱暴・狼藉ぶりで、大爆笑の連続。その反面、「ヨシザワ」が行き詰った時の武論尊師匠の、自らの体験に基づく親身なアドバイスにほろりとさせられたり、『サラリーマン金太郎』の本宮ひろ志先生との交流のくだりは、実話(?)ならではの興味深さがある。

○月○日 秋山香乃『獅子の棲む国』(中公文庫 820円)
大河ドラマ「八重の桜」の舞台、幕末の会津藩。今までの自分が、いかに薩長史観に影響され、毒されていたかがよく分かり、ある意味とても反省させられた。
本当の尊王思想は会津のほうではなかったのか、そう思わずにいられなくなる一冊。歴史に“もし”は禁物であるが、仮に明治新政府の中枢に会津が少しでもかかわっていたら、また違った明治国家が出来たのではないか。そう思わずにはいられない傑物・好人物の宝庫である。一方で、あの有名な斎藤一(山口二郎)、市村鉄之助なども登場、新撰組ファンにもたまらない。

○月○日 浅田次郎『マンチュリアン・リポート』(講談社文庫 660円)
私の心の小説家・浅田次郎の満洲シリーズの第4弾。昭和天皇の密命を受け、昭和初期最大の謎である「張作霖爆殺事件」の真相を「満洲報告書」にまとめる軍人と、爆殺の現場に居合わせた「デューク」(正体はかなり意外!)の回想が交錯しながら、事件の真相が次第に明らかにされていく。事実か創作かは別として、読み応え満点の、圧巻の小説。『蒼穹の昴』では糞拾いで生計を立てていた、李春雲(あの春児!)も、想像を超える出世を成し遂げていて、いちファンとしては感慨深い。



※本レビューは月刊J-novel 2013年7月号の掲載記事を転載したものです。