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後藤美由紀

本屋さんの読書日記 [TSUTAYA 津田沼店 後藤美由紀さん]

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月刊J-novelで連載している人気コーナー「本屋さんの読書日記」。毎月、全国の書店さんに最近読んだ中でオススメの本を紹介いただきます。今回はTSUTAYA津田沼店の後藤美由紀さんの登場です。

TSUTAYA 津田沼店 後藤美由紀さん
「卒業の季節にであった物語」

○月○日
「卒業」という言葉には独特の切なさが伴う。その切なさを鮮明に思い出させてくれるのが加藤千恵『卒業するわたしたち』(小学館 1470円)だ。学校だけでなく様々なものから「卒業」する女性たちを描く短編集。どの作品を読んでいても、読んでいる瞬間は彼女たちになりきってしまう。どうしようもなく好きで、別れたくなく、切なくて、泣きたくて。でも、彼女たちは決して後ろ向きではない。別れと同時に前を向いて新たな一歩を踏み出し始める。「卒業」は「別れ」ではなく「新たな旅立ち」なのだと教えてくれるのだ。
各作品の冒頭に添えられた短歌には、それぞれの主人公たちの思いが凝縮され切なさに拍車をかける。歌人である著者だからこその作品であると思う。

○月○日
白河三兎『私を知らないで』
(集英社文庫 683円)は昨年、「いきなり文庫」で出版された中の一冊。転校してきたシンペーが出会った美しいクラスメイト「キヨコ」はクラス中から無視されている。そんな仕打ちなど全く意に介せず我が道を行くキヨコだが、彼女はある秘密を抱えていた……。転校を繰り返すことである種の処世術を身に着け、どこか冷徹なシンペー。幼児期の辛い経験が元で他者を受け付けないキヨコ。二人の関わりはやがて彼ら自身と彼らを取り巻く人々を変えていく。「生きる」ことに貪欲でひたむきなキヨコの強さが心に突き刺さり、凡庸に生きている自分に活を入れられたような気がした。

○月○日
現実での探偵調査といえば浮気調査、人探し、ペット捜索……。そんな探偵業の現実感を前面に押し出しつつ、大いに笑わせてくれたのがさくら剛『俺は絶対探偵に向いてない』(ワニブックス 1500円)。「できれば一生ニートでいたい」と思っているしょうもない25歳男子のたけしがひょんなことから探偵事務所で働くことに。登場人物のキャラクターや生き生きとしたやり取りに何度笑わせられたことか! といっても、ただ単に笑えるだけでなく、たけしが仕事を通して成長していく過程は感動的でさえある。読み終わる頃には「こんなに立派になって」とたけしの母さながらの気持ちになっていた。ビジュアル感が強い作品なので、いつかドラマ化されることを期待したい。

○月○日
水戸光圀公といえば、日本人のほぼ全てがテレビの「黄門様」を思い浮かべるであろう。冲方丁『光圀伝』(角川書店 1995円)はその光圀公=好々爺のイメージを大きく打ち破る作品。強く荒々しく、しかしその反面、繊細で思慮深い。一人の人間として悩み苦しみ成長し、一藩の藩主として数々の事業を成し遂げた男の生き様は女性の私が読んでも熱く胸に迫るものがあった。特にリーダーとしての光圀公のあり方には強く魅かれ、こうありたいと憧れさえ覚える。今の日本に必要なのはこういった人材であると思わずにはいられない。



※本レビューは月刊J-novel 2013年5月号の掲載記事を転載したものです。