
内容紹介
実力派女性作家が描く、狂おしい愛と性のかたち
溺れたい。それだけなのに――。かつて駆け落ちをはかった男の身体を求めながら、娘への虐待を繰り返す女。ストーカーに怯え、別れた恋人の部屋に飛び込むアラフォー独身女。元夫からの養育費が途絶え、現実逃避を夢想する母親。妖僧に惑わされるイケメン修行僧……。人生の「果て」に直面し、夜の底で求め合う女と男の、切なく狂おしいまでの生と性を実力派女性作家が濃密に描きだす、7つの物語。いきなり文庫。
「あんた、女にもてますやろ!」
秀建が急に眼をかっと見開いて、高く叫ぶような声を出したので、伸也は戸惑った。
「……いえ」
「嘘つきなはれ! こんなイケメンの男前、女がほっときまへんわぁっ!!」
本山の敷地の中の事務所の応接室で秀建とふたりきりで向き合っている伸也は、故郷の隣村から出た有名人である僧と対峙して、その態度に戸惑っていた。
秀建さんは、隣村の人やから、何かと世話になりや。仏さんのことも世の中のこともよぅ知ってはるし、ええ人やから――そう、住職に言われて挨拶に来たのだが、いきなりこの俗物ぶりを隠さない様子は、どうだ。
(「海の匂い」本文より)
目次
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■エデンの指図 桜木紫乃
■天国の鬼 宮木あや子
■髪に触れる指 田中兆子
■嵐の夜に 斉木香津
■紅筋の宿 岡部えつ
■南の島へ早く まさきとしか
■海の匂い 花房観音