第39回 温泉ジャーナリスト 野口悦男さん

誰も知らないような野湯につかりながら飲む酒は,最高。温泉の温かさと酒の冷たさはベストマッチングなんだ
あるべき温泉の姿とは
 温泉が専門になり,二十年ほど「温泉ジャーナリスト」という肩書きを名乗っていることになります。社会に貢献する情報を伝えるのが「ジャーナリスト」だと思っているんです。
 近年,温泉地の古い建物が取り壊されてきんきらきんの建物に変わったり,温泉とは名ばかりで源泉の湯量が少ないからとお湯を循環させたりのところが増えてきています。そんな見せ掛けだけの快適さを追う風潮に警鐘を鳴らさなくてはと「TVタックル」などいくつかのテレビ番組でも,「温泉が危ない」と問題提起をしてきました。
 日本が世界に誇れる地下資源が「温泉」です。古来より日本人は温泉の体と心を癒す力を利用し,また,その温泉地の風情は日本の文化でもあります。未来に伝えていきたい本物の温泉と温泉文化があるのです。それを守りたいと思うのは,温泉を長年見てきた僕の使命感であり,正義感です。「日本温泉遺産を守る会」を設立して,全国の「本物の温泉」を調査,インターネットで発表しました。
 日本全国一万八千ほどの温泉施設があるのですが,僕らが調べた感じでは三千五百ほどしか100%源泉風呂がありません。危機的状況です。しかし,温泉である以上,どの温泉にも,源泉はあります。すべての湯船を源泉でまかなうのが無理だとしても,その湯量に見合った源泉風呂を必ず作ってほしいですね。すべての湯船に塩素を入れて循環させてしまうのではなく,小さくても源泉風呂が必要なのです。そうすれば,体を本当にいたわりたい人は小さな源泉風呂,体をゆったり伸ばして景色をゆっくり眺めて入りたい人は循環湯でも大きな湯船と,それぞれの用途に合わせて選べますよね。今の温泉は,それが源泉なのか循環湯なのか表示がほとんどされていません。循環湯なのに源泉が流れ込んでいるように錯覚させる造りになっているところがたくさんあります。今年に入ってからでも,千人を超える人が循環湯のレジオネラ菌に感染,宮崎県の温泉施設で七人も死者が出たのは記憶に新しいでしょう。循環湯には塩素殺菌などの衛生管理も必要なのは前提ですが,ちゃんと湯船に循環湯と表示があればそれに見合った入り方かできるはずです。
 子どもを引率する親御さんや先生がたには,循環湯の温泉の入りかたを,ちゃんと指導していただきたいと思います。レジオネラ菌は水蒸気で舞い上がります。レジオネラ菌を吸い込まないために,打たせ湯は禁止してください。湯船の水面からは,四十センチ以上顔を離して入浴してください。お湯を飲まないようにするのはもちろん,湯上りにはシャワーとうがいをしましょう。体の弱い人から感染しますので,お年よりも気をつけなくてはいけませんね。
 水着を着て入る大型レジャー施設のような温泉。これは,厚生労働省にプールとしての法律で管理されているものです。宿泊の伴わない日帰り温泉は,厚生労働省に公衆浴場としての法律で管理されています。一方,温泉法は環境庁の管轄になります。「温泉」と言われるものの多様化する実態。本質を見極め,考える。それは,今,一番大切な能力なのでしょう。
(構成・写真/石原礼子)
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