第1回 噺家 春風亭柳昇さん

自分に合った仕事が見つけられたら幸せです
落語も魚も新鮮なネタで勝負
 私には弟子が十七人いますが、弟子たちによくいうんです。「八百屋だって魚屋だって毎日仕入れにいって商売してるんだ。噺家も毎日新しいものを仕入れしなきゃだめじゃねえか」と。私は新作落語を書き上げたら机の上に置いとくんです。で、カミさんが読んでなんとかなりそうだというとこれがなんとかなる。だめだというときはなんど書き直してもだめですね(笑)。ほかにも弟子たちには「売れてる人と付き合え」といっています。「売れてる人は売れるだけの理由がある。理由もなしに売れるってことはない。なにか光るものがある。それを盗みなさい」と。それに売れてる人はいいお友だちをたくさんもっているんですよ。杉良太郎さんのパーティーにいったときのことですが、大手都市銀行の頭取があいさつして、「杉さん、来月またくるんでしょう、『私を一か月間買ってください』なんていって」と。つまり芝居の団体チケットを全公演まとめて銀行が買ってくれるんですね。すごい人はすごいひいきをもってると思いましたね。芸人は売れてくると食い物からなにから待遇がよくなるんです。売れてないとまずいものしか出ないもの(笑)。

落語家になれるかどうかは熱意しだい
 最近、噺家になりたいという若い人が増えてきて、「どうしたら落語家になれますか?」という質問をよく受けるんですが、はっきりいって熱意があるかどうかですね。現在、前座の七十パーセントが大卒です。これからは海外との交流もあって、それはそれでいいことだと思います。ただ、大学出てもはっきりしないのがいるんです。ぼんやりしてちゃいけません。自分の芸をうまいと勘違いしているものも多い。「君、へただね」というと怒りますからね。よければだまってても売れます。よくないから売れないんです。すべて自分なんです。お客さまを見る目も必要です。言葉は悪いけれど魚を釣るのと同じ。タイをつるにはエビ。ハゼを釣るにはゴカイ。今日のお客さまはどういう餌を好むのかと、客層を見る目がなきゃだめです。「今日の客は屁みたいな客だ」とうけないでおりてくる人がいるんですけどね、「そりゃおまえがばかなんだよ」と。それだったら、お客さまに喜ばれるような落語をやればいいんです。

自分に合った仕事を見つけよう
 これからの学校教育に望みたいことは礼儀ですね。中学や高校に落語をやりにいくことがありますが、生徒を見なくても先生を見ればその学校の質がだいたいわかります。先生の礼儀正しい学校は生徒もみんないいですよ。それと、人には能力・適性というものがありますからね、勉強の苦手な子どもに高校や大学にすすめというのはかわいそうですよ。知り合いで勉強は苦手だったけれど土建屋で成功した元ガキ大将がいますがね、度胸のないものに事業をやれといったってできませんよ。全財産抵当に入れて銀行から借金してやるんですから。商売は度胸ですからね。アタマはいいけれど度胸のない人は学者になるんです(笑)。ですからその子に合ったものを選ばせる。ひところ巨人大鵬卵焼きといいましたけれど、長嶋さんは野球、大鵬さんは相撲をやるために生まれてきた人です。そういう自分に合った仕事を見つけられたら幸せですよ。これが大鵬さんや長嶋さんに音楽やらせてたらどうなっていたかわかりませんよ(笑)。親や先生もこの子にはどんなところに能力・適性があるのかをしっかり見てあげてほしいですね。幸いにしてせがれたちは噺家になりたいとはいわなかったですね(笑)。長男は車のデザイナー、次男はアニメ作家としてがんばっているようです。

まだまだ若い人には負けない
 六十歳になってから富士登山を始めました。きっかけは、当時小学生の娘が小児ぜんそくで、少しでも体力をつけてあげたいという気持ちと、ぼんやり立っているところをビデオに撮られたことですね。見たら膝が曲がっている。歳を取ると膝が曲がってくるんですね。これはいけないということで富士登山に初挑戦。ところがその話を聞いた人たちから「来年はぜひ一緒に連れていってくださいよ」とたのまれた。それでもって十五年もつづいてしまったんです。今年は総勢三十人。帰ってくると勇気凛々です。なんといってもおなかのへるぐらい楽しいことはありませんね(笑)。これまでも、そしてこれからも私の夢はいい落語を創ること。まだまだ創りつづけていきますので、皆さま、乞うご期待を!   
(構成・寺内英一/写真・藤田 敏)
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