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柚木麻子『王妃の帰還』刊行記念インタビュー「教室にいた少女たちへ」

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カトリック系女子高に通う少女たちの波乱の日々を描いた『王妃の帰還』。著者の柚木麻子さんが込めた思いとは――
取材・文/ 瀧井朝世  撮影/ 泉山美代子
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柚木麻子(ゆずき・あさこ)
1981年東京都生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒業。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞。2010年、受賞作を含む連作集『終点のあの子』でデビュー。以来、数々の雑誌で小説、エッセイの連載を持つとともに漫画原作を手掛けるなど精力的に活動。『嘆きの美女』がドラマ化され2013年1月よりBSプレミアムにて放映中。その他の著書に『あまからカルテット』『けむたい後輩』『早稲女、女、男』『私にふさわしいホテル』がある。

――「紡」に連載していた『王妃の帰還』がいよいよ刊行されました。舞台はカトリック系の女子校中等部の2年生クラス。頂点にいた美少女が失墜したことから起きる騒動を地味グループの一員である範子、通称ノリスケの視点から追っていきます。女の子たちの駆け引きがリアルかつスリリングで、そして最後は胸がキューンとなりました。柚木さんはもともと少女小説が好きでしたよね。

柚木 これははじめて中学生くらいの年代に向けて書いた小説になります。小中学生の頃ジュディ=ブルームや氷室冴子さんが大好きだったんですが、最近になって、今読んでも面白いことに気づいたんです。私は母校の文芸部で教えているので、生徒たちくらいの年代の人が読んでいるものを書きたい気持ちもありました。でもいかんせん児童文学の依頼はこなくって。「紡」さんから連載のお話をいただいた時、「少女の友」の中原淳一さんのイラストを表紙にしている雑誌ですし、書かせてもらえるかなと思いました。少女向けだけど大人が読んでも面白い小説にするべく、さじ加減はすごく考えました。

女子校という舞台

――中高一貫のカトリック系の女子校が舞台ですが、柚木さんご自身も中高一貫の女子校出身ですよね。

柚木 私の出身校はプロテスタント系でした。以前確か酒井順子さんが、負け犬が多いのは都内の中高一貫のプロテスタント系の女子校出身者だって書いていて、すごく納得できたんです。女子校って一括りにされがちですが、実は全然違う。プロテスタントは迫害されて戦った歴史があるので校歌の歌詞も「勇み戦わん」とか「大進軍に吾等も続かん」とか、モテない歌詞なんです。でもカトリック系はマリア様のような女性を目指そうという教えなので校歌も「私たちの泉よ」とか「みなの母にならん」みたいな歌詞。お行儀にもうるさく言われて、つまりはリア充教育を受けるんですよね。受験の時も母親が仕事をしているのはマイナスになることが多いそうで、結局父親がお金持ちの家庭の生徒が多くなる。そういう環境だからこそ、クラス内のカーストのあり方も違ってくるだろうなと思いました。

――ノリスケが属する地味グループの4人は、母親が働いていたりいなかったりする。それは彼女たちの学校では珍しいんですね。

柚木 ノリスケは両親が離婚して母親と暮らしているんですが、超お嬢様学校では親が離婚している子はまず受からないそうです。彼女はものすごく成績がよかったんですね、きっと(笑)。ヨーロッパ史が大好きでマリー・アントワネットやフランス革命にも詳しいという設定ですが、あまり詳しいと中学2年生っぽくないので、図書館で子どもが読むような本やウィキペディアで分かる程度の薄い知識だけを書いています。

登場人物たちの立ち位置

――ノリスケたち4人は悪目立ちしないように気遣いつつ、仲間たちで楽しく過ごしている。それぞれどういう人物として考えていたのですか。

柚木 ノリスケは狂言回しですが、実はいちばん過激な性格で、最終的にある行動に出る。彼女のことは革命家として書いています。親友のチヨジはあらゆるグループに出入りできる能力を持った知性派。リンダさんは女子校によくいるハーフの子。メディアに出ているハーフってすごく可愛くてスタイルがいいけれど、女子校に留学してくるような子ってそうではないタイプのことが多いんです。山内マリコさんの「アメリカ人とリセエンヌ」みたいな感じ。そうした子が書きたかったのと、あとは私の幼馴染みにもリンダさんみたいにローズネットクッキーばかり食べていた子がいて、その子のことを書きたかったこともあります。スーさんは大人っぽいからこそ地味になってしまう子を考えました。クラスの子から見たら地味だけど、実は落ち着いている子なんです。教師から見るとクラスの勝ち組は派手だけど子どもっぽくて、地味な子のほうがずっと大人に見えたりする。この4人はイケてないし、人気者になるわけでもなく地味に生きていく。そういう子のよさを書きたかったんです。

――ノリスケはクラス一の美少女、滝沢さんのことを内心王妃と呼んで憧れている。そんな王妃がマリー・アントワネットの「首飾り事件」ならぬ「腕時計事件」で人気を失って姫グループを追われ、無理矢理ノリスケのグループに加わったことから仲間たちがぎくしゃくしてしまう。そこで、ノリスケたちは王妃を元のグループに戻そうと画策します。

柚木 いちばん上で君臨していた姫グループの子がいちばん下の地味グループに来ても、何の役にも立たないという。白雪姫は小人たちが面倒を見てくれたけれど、小人ではなく女の子たちの場合はそうはいきません。空気も読めないし何ができるわけでもないお姫様のことは、嫌いというわけじゃないけれどつきあいづらい。でも仲間外れにするわけにもいかないから元に戻ってもらおう、となるわけです。一方で王妃にしてみると、ノリスケたちオタクグループに入ったものの、みんなの冗談が分からない。きっとオタクトークが薄気味悪かったと思う(笑)。チヨジが自由が丘で「美容院ばかりでないか!」と言う冗談は実際、私の高校時代の鉄板ネタだったんですが、違うグループの人にはまったく通じなかった。私もよそのグループの会話の意味が分からなかったことがあります。グループって国みたいですね。どんな小さなグループにも歴史と文化があって、よそに行くと通じないことがある。教室って、小さい国がいっぱい存在している場所なんです。

――王妃が“国”から追放された時、裏で「そっちのグループに入れてやってくれ」といった駆け引きが起きます。単に仲間外れにせず受け入れ先まで考えるところが独特だなと思いました。

柚木 お嬢さんたちなので、誰も悪人にはなりたくないんです。壮絶ないじめはしたくない。フランス政治にもそういうところがありますね。マリー・アントワネットは捕まった後も差し入れをもらって、死ぬ日までちゃんと暮らせたそうですし。教室の中で、ちょっと意地悪な女の子たちの間で駆け引きが行われている状態なんです。

変化するグループの力関係

――クラス内ははっきり5グループに分かれていますね。それが、王妃の事件があってからどんどん力関係が変わっていく。

柚木 フランス革命から王政復古まで階級が次々ひっくり返っていく様子を頭に入れて書きました。フランス革命の時って農民が力を持ちますよね。ノリスケたちはその階層のイメージ。トップは滝沢さんがいた姫グループで、女の子っぽいギャルズは伯爵グループ、ロックが好きなゴス軍団は革命となるといちばん強い力を持っている商工業者層(笑)。優等生たちのチームマリアは体制側で、聖職者たちのイメージ。

――個性がはっきり分かれていますね。

柚木 モテと非モテの差って、単に趣味の違いなんだと思ったんです。親の年収なんかは関係なくて、外に向かうメジャーなものが好きか、内に向かうものが好きか。ギャルの子たちはキラキラしたものが好きで、質実剛健な子たちは地味なものが好きというだけ。迫害されたからオタクになったなんてこともなくて、例えばチヨジなんかは実はすごく可愛いんですが趣味がオタクだから地味なグループに入っている。趣味の差で勝ち負けを決めるのはおかしい、ということを書けたらと思っていました。

――駆け引きが起きていろんな人がグループに出たり入ったりして、みんなの階級がめまぐるしく変わっていく。ノリスケたちも下層から上層まであらゆる立場を体験しますね。

柚木 中学生くらいの時って、夏休みがあけるとイケてない子が可愛くなって違うグループに入っていたりする。急激な変化が起こるものなんです。思うのは、この年頃って自分と違う人とつきあえるチャンスだということ。社会に出ると自分と似た人としかつきあわなくなってしまうんです。文芸部の子にも、もっと違うグループの子と喋ったほうがいいよって言っています。一瞬仲良くしただけで終わってしまうかもしれないけれど、後でそういう時間も宝物になりますから。

女子校における“男性”

――担任の若い男性、星崎先生は生徒たちに翻弄される存在です。実は、王妃は彼のことが好きなんですよね。

柚木 ずっと女子校にいると男の子がまわりにいないから先生か修学旅行の添乗員くらいしか出会いがなくて、好きになっちゃうんですよ。私自身は病気で修学旅行に参加できなかったんですが、旅行先で添乗員の男の人がくれた名刺をめぐってクラスの子たちが大ゲンカになって、旅館の壁に穴をあけたらしいんです。後で20人くらいからいろんな角度でその話を聞かされたわけですが、共通しているのは「私は別に好きだったわけじゃないけれど」ってみんな言うこと。穴を開けた子も「私は押されただけ」って言う。でも集合写真を見たらみんなぽわーっとした顔をしてました(笑)。恋ってほどじゃないけれど男の人にかまわれて嬉しかったんだな、これが女子校だなって思ったんです。それくらい出会いがないんです。

――それで星崎先生がモテるんですね。しかもお笑いコンビのピースの綾部さんに似ているという設定が絶妙というか微妙というか。

柚木 藤田紀子さんとの噂が出た時、「お母さんの恋人がこの人だったらなんか嫌だな」って思って。それはなぜか考えてみたんです。中高生と話していると、派手な子たちはピースでは綾部さんが好きで、地味な子たちは又吉さんが好きだって言う。社会に出たら又吉さん好きのほうががマジョリティですよね。大人と子どものメンタリティの違いはっきりが表れるのがピースだと気づいたんです。それに例の修学旅行の写真に写っていた添乗員の男の人も綾部さんぽかった(笑)。そうやって考えると、あの頃人気があった塾の先生も他の男の人も、みんなどこか綾部さんぽかった。つまり綾部さんって、分かりやすい魅力の人なんですね。

――実は星崎先生を好きな生徒は他にもいて、そこでまた騒動が起きてしまう。そういえば『終点のあの子』を書いた時は脇役に至るまでクラス全員のプロフィールを作っていたそうですが、今回もそうなんですか。

柚木 そうです。村上さんの親は医者で……などと決めてあります。グループ分けがはっきりしているので、きっちり作りました。

――最初に王妃を告発する安藤さんはやっかいな人だし、姫グループのナンバー2の村上さんも侮れない。ちょっとしか出てこない姫グループの梅崎さんは、相当性格悪そう。

柚木 安藤さんは今回の騒動でいちばん悪い人かもしれません。村上さんは人をちやほやして調子にのらせて駄目にするタイプで、頭がいいから意識的にやっていると思う。でも王妃にとっては気の合う人なんです。意地悪されるかどうかよりも、気が合うかどうかのほうが大事なんですよね。梅崎さんはそうです、すごく意地悪です。結局、王妃ではなくまわりが意地悪なんです。ゴマをすることで恩恵を受けようとする子たちがいて、王妃も最初は戸惑っていたのにモテはやされて鼻が高くなってしまったんです。

“少女”たちへのメッセージ

――終盤に王妃が言う「正論で誰かを打ち負かしても、一人に全部の責任を押し付けても、何も解決しないんだよ」という台詞に説得力がありました。最終的に誰か一人を悪人としてつるし上げるわけではない展開も美しい。

柚木 いちばん悪いと思える人にも、憎めないところはありますから。マリー・アントワネットだって、決していい人ではないのに女の子たちは好きですよね。カリスマとしてのプレッシャーを抱えているところと、あと文化と流行を生み出したという点が大きいですが。

――階級の逆転が一段落した後の彼女たちの成長した姿がキラキラしていました。王妃も変わりましたね。

柚木 今回は読み手に少女たちを意識した小説なので、ラストに希望を持たせました。ノリスケたちと交流を持つまでは、王妃は自分の未来が見えてしまっていたんですよね。お母さんが専業主婦で、自分もそうなるよう教育されている。ノリスケたちが大人っぽいのは、みんなまだ未来が白紙で自分は何にでもなれるって思っているから。でも王妃たちは自分は何にもなれないと思っていて、それでギスギスしていたんでしょうね。例えばいじめで死んじゃう子って、14歳の今がすべてで、教室の中がすべてで、自分が18歳の時になったことが考えられなくなっている。でも、実は、みんなにこれから何かになれる可能性はある、ということも書けたら、と思っていました。



※本エッセイは季刊「紡」2013年春号の掲載記事を転載したものです。