本屋さんの読書日記 [くまざわ書店 山形店 石川和男さん]

2014.02.06

月刊J-novelで連載している人気コーナー「本屋さんの読書日記」。毎月、全国の書店さんに最近読んだ中でオススメの本を紹介いただきます。今回はくまざわ書店 山形店 石川和男さんの登場です。

くまざわ書店 山形店 石川和男さん
「書店勤務ほど楽しいものはない」

○月○日 小宮信夫『犯罪は予測できる』(新潮新書 735円)
書店勤務の良いところは、毎日面白そうな本を見つけてしまうことです。小宮信夫『犯罪は予測できる』(新潮新書735円)。「不審者に気をつけろ」などと、我々は人間に注目しているから騙されてしまう。本当の不審者は「サングラスにマスク姿」などではないのだ。人の意志や注意力によるのではなく、周囲の環境や「場」が犯罪を生んでいるという「犯罪機会論」の知見は、日々防犯で悩まされる書店員には大いに参考になります。犯罪者が犯行に選んだ場所の共通点を探っていくと、「入りやすく」「見えにくい」場所がキーワードになるそうです。

○月○日 芦田宏直『努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論』(ロゼッタストーン 2940円)
書店勤務の良いところは、毎日面白そうな本の案内が届いてしまうところです。芦田宏直『努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論』(ロゼッタストーン 2940円)はそうした一冊。哲学者であり、教育者でもある著者が、若者に仕事の本質を語る表題の項。組織で活躍できる人材とは結果を出せる人材ですが、やっかいなのは努力するが目標が達成できない人間。目標が達成できない「まじめ」な人は、「もっと働かなくてはいけない」というように「まじめに」反省し勤務時間もどんどん延びていく。誰よりも早く来て、誰よりも遅くまで残って仕事をする。「こんなにがんばっているのに」と。書店員には耳の痛い話です。後半はツイッター(ソーシャルメディア)を基点とした社会時評。大事件も退屈な日常もせなか合わせに存在している稀有なメディア、ツイッターでは東日本大震災という大事件も、「傘がない」(井上陽水)のも同様な大事件になってしまう。今も昔も聞こえてくる「港町ブルース」(森進一)の方が遥かに豊饒な事件だったのではないでしょうか。

○月○日 佐々木紀彦『5年後、メディアは稼げるか』(東洋経済新報社 1260円)
書店勤務の悪いところは、無駄に業界の将来を憂えさせる情報が多いことです。そんな中、佐々木紀彦『5年後、メディアは稼げるか』(東洋経済新報社 1260円)は表題の通り「これから稼げるメディアはどういうメディアか」ということを様々な角度から論じています。「ウェブメディアでは、紙メディアに比べてタイトルが10倍重要」など、稼げるウェブメディアの感性は、紙メディアである書店にも必要になってきているような、むしろ今「元気な書店だ」と巷で言われているような書店はウェブ的な感性をもった店なのではないか。本書を読むとそんな気になります。

○月○日 石川和男『原発の正しい「やめさせ方」』(PHP新書 798円)
書店勤務の楽しいところは、同姓同名の著者がいたりすることです。石川和男『原発の正しい「やめさせ方」』(PHP新書 798円)。賛成派も反対派も極論になりやすい話題に対し、緩やかな脱原発の道を提案。社会資本のあり方を説いた名著、宇沢弘文『自動車の社会的費用』(岩波新書 735円)を読み返したくなりました。

※本レビューは月刊J-novel 2013年11月号の掲載記事を転載したものです。