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花房観音『萌えいづる』刊行記念対談 大崎善生×花房観音「団鬼六から受け継いだこと」第三回

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勃起させるよりも萎えさせたい

 ──花房さんが団鬼六賞に応募しようと決めたのは、どのような思いがあってのことですか。

花房 団先生のような官能小説が自分に書けるとは思っていなくても、小説家になりたいという気持ちはずっとありましたから。たまたま書店で「団鬼六賞」の募集を見かけ、ご本人が選考委員をやっていると知った時点で、「これは応募しなければ」と当然のように感じましたね。

大崎 僕は花房さんのことを官能小説家とは思っていなくて、普通に小説家だと思っているんです。官能の二文字は不要。デビュー作こそ官能小説でしたけど、二作目の『寂花の雫』への飛躍がすごく大きかった。もう、立派な文学になっている。『女の庭』は、凄まじく出来のいい作品だと思ってますよ。青春小説のなかに手際よく官能の要素をちりばめていて、さらにミステリー的な演出まで加えられている。

花房 ああ、ありがとうございます。実は私自身も、いまはあまり官能小説というジャンルは意識していないんです。官能小説というのは男性を勃起させるためのファンタジーだと思うんですが、私はどちらかというと萎えさせるほうが好きなので(笑)。

大崎 花房さんの作品は、官能的な描写にしても、どこか男よりの目線を感じますよね。僕は女流作家の方が書く官能小説ではあまり興奮しないたちなんですけど、花房さんの作品はいける。

花房 大崎さんにそう言っていただくのは嬉しいですね。女性が描く官能作品は、どうしても女性が美しく描かれようとしていて、どこかナルシズムを感じることが多いんです。私の作品にはそれがないからでしょうか。

大崎 それに今回の連作集『萌えいづる』を読んで思ったのは、だんだん上品になってきているな、ということ。技術的なことももちろんながら、作家として精神的に安定してきた感がありますよね。

花房 たしかに、執筆中の自分が以前よりも冷静な気がします。

大崎 うん、書き手が落ち着いていると、読むほうも落ち着いて読めるというのは絶対あると思う。

花房 無理なく読んでいただけるようにと、多少は読者を意識して書き始めたのかもしれません。それに今回は「平家物語」をベースにしているので、哀しい雰囲気を大切にしたくて。

 ──『萌えいづる』ではエピソードごとに、様々なかたちで男女関係に揺れる女性たちが描かれています。孤独であったり何かを我慢していたり、あるいは男性に対して非常に強い心を持った女性の姿も印象的です。

花房 「平家物語」に登場する女性って、なぜか必要以上にナヨナヨしたキャラクターばかりなんですよ。何かあるとすぐ泣くし、すぐ出家する(笑)。静御前や北条政子など、源氏方の女性は強い人ばかりなのになぜだろうと疑問に感じたので、「平家物語」をベースにしながらも、少し違う結末を描きたかったんです。

大崎 僕はとくに二話目の「滝口入道」という話が印象深いですね。女性ってとても苦しんでいるんだなあと思わされました。……もっとも、実際にうちのママ友なんかを見ていると、みんな気楽に生きているようにしか見えないけれど(笑)。

花房 女性の苦しみというのは、けっこう贅沢なんですよね。結婚したいと望み続けて、いざ結婚したら今度は「女として見られなくなった」と悩み、そうかといって独身のままでは劣等感を持つ。そういう意味ではやっぱり女性は不自由なのかもしれないな、と。

大崎 無理やりまとめると、そういう贅沢な女性が多いから、団鬼六みたいな存在が必要だったのかもしれません(笑)。ともあれ、花房さんには官能小説というジャンルに縛られず、さらなる活躍を期待したいですね。

花房 ありがとうございます。新人なのでいまは依頼をひとつずつこなすことで精一杯ですが、団先生がやろうとしていた歴史小説は私も大好きなジャンルなので、いつか自分でも取り組んでみたいと思っています。
(七月三日 東京・西荻窪にて)



※本エッセイは月刊ジェイ・ノベル2013年9月号の掲載記事を転載したものです。