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花房観音・大崎善生

花房観音『萌えいづる』刊行記念対談 大崎善生×花房観音「団鬼六から受け継いだこと」第一回

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団鬼六と深い縁のある、二人の作家が初対面。秘話、珍話続出の思い出話から、作品論まで語り尽くす──
構成・文/ 友清 哲  撮影/ 泉山美代子

それぞれの団鬼六作品との出会い

 ──まずはお二人それぞれの、団鬼六先生との出会いから聞かせてください。

大崎 団さんと初めて会ったのはいまから20年ほど前、僕がまだ将棋雑誌の編集者をやっていた頃のことです。団さんは当時ものすごい売れっ子で羽振りが良く、棋士の皆さんにとっていい“ダンナ”だったんです。横浜の大御殿に何人も招いてご馳走して、その代わりに将棋を教わるということを連日やっていました。

花房 私は20代の頃から団先生のファンで。最初の入り口こそSM作品でしたけど、ちょうどその頃に幻冬舎アウトロー文庫で出ていたエッセイや、「不貞の季節」など官能小説とはまた違った作品を読んで、いっそう夢中になったんです。でも、まさか自分が官能小説を書くことになるとは夢にも思っていなくて、団鬼六賞に応募するまでは、怪談などまったく別のジャンルの小説を書いていました。

大崎 怪談って、オバケが出てくるやつ?

花房 そうです。「幽」という怪談雑誌の新人賞に応募したりしていました。それがこうして官能小説でデビューすることになるなんて……(笑)。

大崎 それもまたご縁でしょうね。ちなみに僕は、小学生から官能小説を読んでいたんですよ。

花房 えっ。

大崎 川上宗薫から始まって、宇能鴻一郎、富島健夫や阿部牧郎など、ありとあらゆる作家を読み漁ってました。早熟でしょ? 官能小説界の羽生善治と呼んでほしい(笑)。

一同 (爆笑)

大崎 古書店でこっそり買い集めていたんだけど、ある日それが親父に見つかっちゃって。それまで集めた官能小説をすべて右から左に並べられて、一冊ずつ順に手に取ってバシッと頭をはたかれたりしてね(笑)。……いまにして思えばこれも小説家になるための修業なんだし、なんで叱られなきゃならないのかわからないけれど。

花房 でも確かに、私が解説を書かせていただいた『ランプコントロール』(中公文庫)も、セックスシーンが非常に濃密で印象的でした(笑)。

大崎 あの作品は連載媒体が婦人誌だったから、意識的にそうした部分もありますけどね。

 ──花房さんにとっての初めての団鬼六作品はどの作品ですか?

花房 団先生の作品はずっと気になっていたんですけど、なかなか手に取ることができなくて。ある日、古書店で『新夕顔夫人』という作品を見つけて、勇気を出して購入したのを覚えています。

大崎 ああ、あれは名作ですよね。

花房 そこからSMだけでなく、団先生が書いたものは何でも読むようになるんですけど、将棋関係のエッセイは、将棋の世界をまったく知らない私でもすごく面白かったですね。実際にご本人にお目にかかったのは、団鬼六賞の授賞式でした。お亡くなりになる直前のことでしたけど。

大崎 そうですよね。授賞式が2011年3月で、亡くなったのが5月でしたから、体調的にもかなり厳しい時期だったはず。なにしろ、その年の1月に「余命3カ月」と診断されていたくらいですから。

花房 せっかくの機会だったのに、緊張し過ぎてどんなやり取りをしたのかほとんど覚えていないんですよ。私にとっては神様のような方なので。

団鬼六スタイルを踏襲した『花祀り』

大崎 『赦す人』にも書きましたけど、団さんは本当によく酒を呑む人で、僕も打ち合わせと称して昼から会うものの、すぐに飲み始めてそのまま夜中まで延々ハシゴするのが日常でした。本当に、危篤になるギリギリまで元気に呑んでいましたから。

花房 本当にそんな感じだったんですねえ。でも授賞式には、体調の都合で来られないと伺っていたんですが、当日になって急きょ出席していただけることになって……。すごく嬉しかったんです。

大崎 団さん、花房さんのことを褒めてましたよ。

花房 え、ホントですか!

大崎 うん、「あれは本物のエロや!」って(笑)。

花房 あ、あれ。授賞式のスピーチでは、「濡れ場はともかく、和菓子作りのシーンがいい」って褒められた気がしますが……(笑)。

大崎 あまり真正面から人を褒めるタイプじゃないからね。第1回目の受賞者だから、団さんにとっても花房さんは格別に可愛い存在だったと思いますよ。

花房 うーん、緊張でほとんど会話らしい会話ができなかったことが、ますます悔やまれます。

大崎 ちなみに、僕は花房さんの受賞作『花祀り』を初めて読んだ時、団鬼六のスタイルにとてもよく似ているので驚いたんですよ。

花房 ああ、そうかもしれません。団鬼六賞はその時が第1回目だったので、傾向も対策も練りようがなくて、団先生の作品の形を踏襲して書きましたから。そこに自分のオリジナリティとして、「京都」や「和菓子」といった要素を加えたんです。

大崎 なるほどね。構造的にも『花と蛇』のそれですもんね。僕がすごいと思ったのは、これまでにも団さんと同じことをやろうと試みた人はごまんといるはずなのに、ここまで巧みにコピーできた人がいなかったということなんですよ。きっと団さん自身もそう感じたんじゃないかな。

花房 それは嬉しいお言葉です。よくまわりの人からも言われるのですが、第一回目の団鬼六賞をいただいて、受賞直後に団先生がお亡くなりになったことで、私も一緒に注目してもらえたというのは、作家として非常に恵まれていたと思いますし、先生には本当に感謝しかないです。



<第二回につづく>