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原田マハ氏『総理の夫』インタビュー 前編 「相馬凛子は、優しいまなざしを持った理想の総理であり、女性の代弁者です。」

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学士会館にて撮影
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原田マハ(はらだ・まは)
1962年、東京都生まれ。85年、関西学院大学卒業、96年、学士入学した早稲田大学卒業。アートコンサルティング、キュレーターを経て、2006年、第一回日本ラブストーリー大賞受賞作『カフーを待ちわびて』でデビュー。12年、『楽園のカンヴァス』で第二十五回山本周五郎賞受賞。主な著作に『一分間だけ』、『夏を喪くす』、『キネマの神様』、『翼をください』、『独立記念日』、『本日は、お日柄もよく』、『でーれーガールズ』、『旅屋おかえり』、『生きるぼくら』、『ジヴェルニーの食卓』などがある。

総理といえば男性でなく、女性だったんです。

――執筆の経緯、女性総理という発想はどのようなところからですか。

原田 最初からもう女性総理というアイディアがありまして、「ジェイ・ノベル」で連載をとのお話があった時、先にタイトル『総理の夫』を言ったんです。すると担当編集の方が「それは何ですか?」。
皆さん総理といえば男性を想像するでしょうけど、女性総理を支える夫の話を書いてみたいと言いましたら、「着想が面白い。それでいきましょう」ということになりました。それが3年くらい前で、その後準備に1年近くかけ、連載スタートが2011年春からでした。

――タイトルが先だったんですね。

原田 私は小説を書く時にタイトルから浮かぶほうで、『総理の夫』は何かのきっかけで思いついたんです。タイトルがキャッチーだったので、これでいこうということにしました。もう一つ、先行して2010年に『本日は、お日柄もよく』(徳間書店)という、スピーチライターの物語を書いたときに、選挙の勉強をしたからです。
私は全くもって政治的な発言をするタイプではないのですが、現状に対して何がしかのアンチテーゼを小説で唱えることはやってみたかったのです。できれば若い人たちにアピーリングな形で、自分たちの生活に関わることが政治なんだと、小説がきっかけで気づいてくれればいいなあと思いました。それで同作を書くにあたり選挙の勉強をした時、不条理なことに気づきました。今年の参院選でインターネットが解禁になりましたが、当時はもちろん解禁されていません。とにかく政治家へ有権者の声が届いてないんではないかと、様々な疑問が起こってきました。スピーチライターの物語では収まりきらなくなり、もう一段上げてみようと、どうせ上げるんだったら、中途半端な政治家ではなく総理大臣でという気持ちになりました。
『総理の夫』連載当時は民主党政権だったのですが、政権交代してみたけどこんな内容なのかい、とがっかりでした。自民党で保守すぎてもだめだし、民主党に政権が代わってみてもだめだったので、だったら、自分の理想とする総理大臣を書いちゃえと。理想の総理は男性でなく女性だろうなという思いがありました。
女性の社会進出は以前から言われているものの、大企業の幹部だとか、政治の世界は大々的に女性が出てこないではないですか。現状、重要ポストは男性が占めているというのは、世界的に見ても後発国ですし、そこにアンチテーゼを掲げたかったわけですね。世の中の半分は女性でできていて、女性が元気で男性がだめだと言うわりには、偉そうにしているのはやっぱり男性だし。もっと女性に大きな政権、責任を担わせるくらいのポジショニングをしようという思いが強くありました。

――凜子 [りんこ] が女性だということを含めても、理想の総理大臣ですね。

原田 彼女には汚点がないという設定にしましたが、現実問題そんな人はいないと思うんですよ。これは小説の中だからできることだし、完全無欠の総理大臣が一人くらいいたっていいじゃないか、現実世界はうまくいかないから、夢を見てもいいじゃないかと。ファンタジーめいた政界の物語が一つくらいあってもいいかなあと、だからリアリズムの徹底とかは全く考えていません(笑)。

――凜子の政策には、原田さんの理想と同時に怒りがこめられていますね。

原田 その通りです。連載中に東日本大震災が起こりまして、原発の問題が出てきました。本当はもっと色々書きたいことがあったんですが、そこまで現実問題に即して書くのはかえって危険だという思いもありました。私が政治的領域に踏み込んでいくと読者に誤解されてもいけない。
作品全体を理想論でつらぬきたいというのがありましたし、現実に即しすぎないことにも注意しました。消費税問題についても、野田政権時代に引き上げ法案を決めましたが、私はその前から消費税問題が重要だろうと思っていたんです。理想をつらぬいて説得できる総理がいたら、国民は増税を受け入れるでしょうね。ビバ・増税というつもりではないですが、難しい政策の舵取りをする時に、リーダーシップをとれば国民は納得するはずなんですね。現実にそうできる人がいないから(笑)、政治ファンタジーとして書いておいていいんじゃないでしょうか。

――原田さんの、一国民としての思いも反映されているのでしょう。

原田 もっと理想を言えば、増税なんかない世界のほうがいいわけですよ。ただ増税なき日本、というのを書いてしまっていいのかどうか、それはそれで問題あるので、やはり、説得できる総理大臣が出てくるというところに理想をこめたというわけです。

――総理官邸、公邸、SPや首相専用車、政府専用機のことなどかなりお調べになりましたか。

原田 いろいろ調べましたが、これは小説で近未来の話ですから、想像もあっていいだろうと。近未来にこうあってほしい内閣府の姿、官邸の姿、日本社会の姿だったりするのです。ことに総理公邸は、キッチンとか寝室とか(笑)、セキィリティ上の問題があってネット上でもわからないようになっています。そこは読者も想像を共有するみたいな形で書きました。
政府専用機に関しては、『翼をください』(毎日新聞社)執筆時に、ブレーンになっていただいた飛行機マニアの友人がいまして、その人に近未来の政府専用機はどうあってほしいかを聞きました。タッチパネルを使って機内で会話するというのはフィクションなんです。ともあれ想像上の総理周辺を書くというのは楽しいことでした。もし私が凛子のそばにいたらわくわくするでしょう。
そういう意味で終始、私の視線は語り手の日和 [ひより] にありました。凛子のそばにいて、理想の総理大臣がここにいて、日々苦労しながらも前進するところをそばで見守るように書いたのです。日和が憧れている感じですので、凛子が女神化してきたとも言えます(笑)。



<後編につづく>