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  パラアスリートの軌跡⑮ ゴールボール 天摩由貴

パラアスリートの軌跡⑮ ゴールボール 天摩由貴

パラアスリートの軌跡 第15回目を迎える今回は…ゴールボール 天摩由貴のインタビューをプレイバック!(2019年10月発売号掲載。※現在とは異なる内容などありますがご了承ください) 2012年ロンドンパラリンピックで世界の頂点に立った日本女子だが、鉄壁の守備陣形を世界から研究され、16年リオでは5位に沈んだ。悔しさをバネに、守備の改革と得点力向上を合言葉に強化を進め、東京大会で「金奪還」を目指す。チームを率いるキャプテン、天摩由貴に「日本の現在地」を聞いた。 ―東京パラリンピック開幕まで1年を切った今、チームはどのような状態ですか? 天摩由貴(以下、天摩) 気持ちの面も一体感も上がってきています。ただ、技術や戦術面ではまだ課題もあります。海外遠征や国際大会で見えた課題を一つずつクリアし、世界で勝つための準備を少しずつ積み重ねているところです。 ―具体的な強化点は? 天摩 世界では高低差のあるバウンドボールが攻撃の主流になっていますが、今年春の海外遠征では、このバウンドボールに対応しきれず、逆に意識しすぎて違う攻め方でやられたりもしました。この反省から、今は守備を再構築しています。「この相手には、こう守る」という個別の対策で、守備ラインの上げ下げなど相手国やボールの質に合わせて柔軟に対応できる守備スタイルを確立させたいです。 ―相手の状況をリアルタイムで見て確認できないゴールボールでは、事前のデータ収集や研究も重要になりますね。 天摩 はい。データ勝負の一面もあります。「この選手はこのコースの決定率が高い」「あの選手はこんなボールの守備が苦手」など情報班が集めたデータを分析し、戦略を立てます。選手は「ここに投げて、こっちに投げて、回り込んでこう投げる」といった指示を受けます。 ―データというと、学生時代に数学を専攻した天摩さんのセンスが生きそうです。 天摩 どうでしょう? ただ、戦略を指示されたとき、私は頭の中で指示を線で結んでイメージすることは得意ですね。実は試合中も、チームメイトが投げたボールの音を聞きながら、「ここに投げてから、こう投げたな。今、ここに直角三角形ができたから、私は次にこう投げよう」などと考えています。数学というより算数かもしれませんが、試合状況を図形化するのは有効だと思います。 ―キャプテンとしてチームを支える立場でもあります。今年春は代表チームから漏れた時期もありましたが、復活された今、どんな思いですか? 天摩 メンバーから外れて悔しさはありましたが、チームを外から見たり、自分自身と向き合う時間にもなりました。あの時間を無駄にせず、感じたことや得たものを力に変えようと努力してきました。あの時の自分がいたから今があると思うので、今後は成長した自分をしっかり見せたいと思っています。 ―成長できた部分とは? 天摩 「もっと自分の色を出して行こう」と思えたことです。メンバー6人には個性があって、それぞれの良さを組み合わせることでチームとしての力になっていきます。代表を外れて、「今の私には色が足りない」と気づいたんです。「私の色」は、そうですね……。脚力を活かしてコート内を機敏に動き回り、どこからでも狙ったコースに打ち込める、アクティブな攻撃スタイルでしょうか。 また、ベンチからの指示や戦術を理解し、コートの中でアウトプットする力も高めていきたいです。例えば、敵味方の様子を把握しながら、「自分たちは次に何を選択すべきか」「何が有効か」などをもっと冷静に判断し、私自身が攻撃を組み立て、「次、こんなボールを投げて」と仲間に声をかけられるような選手を目指しています。 ―仲間同士の声掛けはとても大事だと思いますが、意識している点はあります? 天摩 全員がアイシェードをして視覚を閉じた状態なので、私たちは声や音を出すことでしか相手を感じられません。自分の位置を伝えるために床を叩いたりしますし、声掛けは絶対に怠ってはいけないところです。私は特に、苦しい時こそ声を出すことを意識しています。相手の攻撃に押されたり、こちらが失点したり、緊張して自分のことに一生懸命になりすぎるようなときですね。試合中はシーンとしているので、選手の声掛けも観客に聞こえると思います。観戦中は「どんな声をかけてるのかな」「何をやるんだろう」という点にも注目してみてください。 ―なるほど。他に、日本女子チームの「ここを見て」ということはありますか? 天摩 以前は「守って守って、1点取って守り切る」が日本のスタイルでしたが、今目指しているのは、「ガンガン攻めて得点し、そして守る」チームです。攻撃もぜひ見てほしいですね。海外チームと比べて球速は遅い分、相手を音でだまそうとフェイクを使ったり手渡しパスを使ったり、いろいろな工夫を繰り返して点を取っています。ただ投げてただ取っているだけじゃなく、チーム全体でどんな動きをしているかとか、「あの選手がフェイクしたら、敵がそっちを見た」とか、そんなところもおもしろいと思います。 ―最後に、出場すれば、ゴールボール選手として2回目のパラリンピックです。目標は? 天摩 一番いい色のメダルを取りたいです。そのために、まずはチーム全体で守備も攻撃ももっと高いレベルに引き上げねばなりません。一人では勝てないので、チームの連携や一体感を高めることも重要です。キャプテンとして、しっかり貢献していきたいです。
天摩由貴/てんま・ゆき 1990年7月26日青森県生まれ。(株)マイテック所属。先天性の網膜色素変性症を患っており、現在の障がいクラスはB1(全盲)。幼い頃からスポーツ好きで、高校、大学時代は陸上競技・短距離走に打ち込む。12年ロンドンパラリンピックに初出場(100m、200m)。引退し、大学院進学後の14年、高校時代の恩師に誘われ、ゴールボールを始める。陸上で鍛えた脚力を活かしたウィング(攻撃的選手)として日本代表入りし、16年リオパラリンピック5位入賞。17年より代表キャプテンを務め、18年アジアパラゲームズ優勝など
取材・文/星野恭子 写真/堀切功


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