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  ラグ車に懸ける! (メカニック:三山慧)

ラグ車に懸ける! (メカニック:三山慧)

ラグ車とは、ウィルチェアーラグビーの競技用車いすを指す。日本選手はニュージーランドの〈メルローズ〉、アメリカの〈ベセコ〉、ドイツの〈シュミッキング〉のいずれかを愛用する。これらは、すべて株式会社テレウスが輸入・販売している。テレウスのエンジニアとして、日本チームのメカニックとして活躍するのが、三山 慧だ。 大学1年生の交通事故で入院していた時に、現在、日本代表強化指定選手として活躍する官野一彦に三山は出会った。官野が始めたウィルチェアーラグビーを見るため体育館を訪れた三山は、その激しさに目を奪われた。 「選手がすごい勢いでぶつかっている。いくらぶつかっても選手たちは笑顔だから、ああ、人は全然問題ないんだな、でも車いすは衝撃で壊れないのかな、と道具に目がいった。そもそも、ラグ車って、かっこいいじゃないですか!」 事実、練習中であれ試合であれ、衝撃でタイヤはすぐにパンクする。その都度、タイヤを交換して急いで空気を入れ、次に備えなくてはいけない。 2007年、オーストラリアで開催された大会に、ボランティアスタッフとして参加。そこで、日本チームのメカニックを務めていたニュージーランド人のマイク・ターナー氏に出会う。 「パンク修理は、メカニックの仕事のほんの一部だということがわかったんです。マイクは、試合が終わると丹念に1台ずつ点検する。破損している部分はもちろん、壊れそうなところを見つけてあらかじめ補強や修理をしておくんですよ。だから、試合中はパンク以外の大きなトラブルがない。メカニックの仕事ってこれか! と」 ターナー氏の仕事ぶりを目の当たりにし、彼が勤務する〈メルローズ〉へのメカニック修行を決意。半年間ニュージーランドで学んだ。帰国後日本チームのメカニックとなり、08年の北京パラリンピックに帯同した。 現在は、大会期間中の点検・整備・修理だけでなく、受注や中古品の改造なども手がける。 「オーダーは、単に採寸すればいいというわけじゃないんです。9割がカウンセリング。どんなプレーがしたいかを徹底的に話し合います」 どれだけ情報を引き出すか。相手が伝えたいことをどれだけ正確に汲み取れるか。そこを間違えると、選手が望むものとは違うラグ車になってしまう。 選手とのコミュニケーションから、こんな設定ではどうかと提案することもある。 「たとえば、日本のエースの一人、池透暢は、試合開始のティッピングをします。ティルティング(片方の車輪を持ち上げるテクニック)が絶対に必要なんです。ラグ車が斜めになっても床と接触させないためには、ウイングの高さを床から4㎝で設定する必要がある。それ以上では、重心が上がって不安定になるから、4㎝が理想なんです」 選手とメカニックのコミュニケーションによって、絶妙なバランスを割り出すのだ。 「ワッシャーは厚さ1㎜ 単位で高さを変更できる。会場の床の質によっても調整しますよ」 メカニックの仕事は、日々勉強だという。アルミニウムという素材ひとつとっても、その種類が多く、溶接のための電流を間違えるだけで破損のリスクにつながってしまう。 「代理店だから修理できませんじゃ許されない。そこはすごく大事にしたいと思っている」 カーボンやマグネシウム、チタンなど新素材のラグ車が増えてきた。淡々と新しい修理方法の勉強を重ねていくだけだ。 16年リオパラリピックで日本が銅メダルを獲得した時には、選手と一緒に男泣き。今年の世界選手権で優勝した時には、当然だと思っていたと話す。 「2020年東京がやってくるけれど、さらにその先、どんな選手もベストパフォーマンスが発揮できるように。それを道具面からずっとサポートしたいと思っています」 取材・文/宮崎 恵理 写真/吉村もと


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