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旅を重ね、滑走を繰り返すごとに、心は太くなる。
雪山を滑る人 〜Gliders of The Snow Mountains〜 購入

Special Talk

写真集『雪山を滑る人』出版記念 特別対談
写真集を読む
スキーヤー・写真家
渡辺洋一
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造本家・アートディレクター
町口 覚
雪山を滑る人 〜Gliders of The Snow Mountains〜 「楽しいんだよ」って

町口 僕から見たら、こんな急斜面で落ちたら死ぬだろうし、危険なところだし、寒いだろうし、リスキーな場所だってことは、思うわけ。
「なんじゃこりゃ」って。
それを洋一さんが俺に見せる時に「マッチー、ここスゲェ ーんだよ」と言わない。
「ここ、おもしろいんだよね」以上、みたいな。
苦労話が多く語れる写真なんだけどね。

渡辺 まあ、バリバリあります。

町口 苦労話をすればきりがないほど、体力を使い、身体を使い、精神も使う。
相手もいるし、人間関係の中でも非常につらい出来事やネガティブなことがあるだろうけど、そんなこと、一切言わずに「楽しいんだよ」って。

渡辺 そっちが勝っちゃう。

町口 日本の百名山や世界の百名山の写真集は、ちょっと威張っている。
ここを撮ったぞ、ここは俺しか撮れないぞ的な写真。
だけど、昔の山岳写真は、「楽しいだろう?」というのまで載っている。
その人たちがその場所にいて、写真を撮って、印刷して本にしてというのは、楽しいんだよというソウルみたいなものが伝わってくる。
いつの日からか、ここは誰も行けないとか、秘境だとか、特別な場所 だとか、そこに俺は入り込んで撮ったとか。
そういうところに流れたような気がする。

渡辺  なるほどね。

町口  そういうことじゃないと思うんだよね、洋一さんの写真は。
だって俺、絶対行けないし、疑似体験がしたい。
やっぱり写真集は、自分で経験してないことだったり、疑似体験をさせてくれる。
佐内(正史)みたいに、確かにこういうのあるよなと、ひょんな日常を気づかせてくれたりするのもある。
洋一さんの写真はどこかへ僕らが飛べる。
東京・青山拠点で、渋谷区、港区、新宿区が行動半径の俺が、ちゃんとアラスカまで行けた。

渡辺 よく読者や見ている人に「すごい!」と言われるんだけど、全然すごいと思えない。
好きなことやって来ただけだし、ある種わがままな生き方をしちゃってる。
普通に生きて、会社に勤めていても、いろんなことある。まったく一緒。

写真集に親しむ

町口 日本人って、写真集に非常に慣れ親しんでない人種なんです。
写真集のいいところは、いかようにも変換できること。
写真は言葉にならないから、結局撮る側は自由。
自由だからこそ選択する術はたくさんあって、置き換えるとすごくいい。
ビジュアル的には、雪山を滑る人なんだけど、それをそのままとらえると成長がない。
そこの奥に入り込んで変換する力が、写真集を見る側についてくるといい。
そういう意味でも写真集の文章は相当いい。
「旅を重ね、滑走を繰り返すことに、心は太くなる」は、雪山でもスキーでも何でもない。人間なんだよね。

渡辺 ずっとスキーをやってきて、その時間を自分で信用してるから、何かあってもそこにつかまってられる。

町口 雪山だって、洋一さんでさえわかってない世界。

渡辺 わからないね。

町口 こんだけ続けてもさ。それも書いてある。
やっぱりなめちゃいけない。でも肩の力を抜くっていう。

渡辺 一緒だよね、街でも山でも。

町口 若い頃に本を読みなさいって言う。でも、写真集も見なさいと思う。
好き嫌いなしにビジュアルもちゃんと見たほうがいい。
いろいろな絵を見なさい、写真を見なさいと言うのは大切なこと。

渡辺 スキーの業界で考えたら、日本人のいいところだと思うんだけど、お稽古として上手になることが重要視される。
でも、今みたいな考え方があったほうがおもしろい。

町口 この写真集は、スキー・スノーボードが好きでたまらない人たちだけではなく、いろんな人に見てトランスしてほしい。
だってスキーの「ス」の字も知らなかったのに、俺がそうしたから。

全編ポジフィルム

町口  今この時代に、オール35mm のフィルムっていうのがいい。
写真の世界でもアナログとデジタルの話は散々議論があるけれど、フィルムにこだわってデジタルやらないとか、そんな時代ではもうない。
でも、洋一さんがやって来た最初の写真から見て、やっぱりフィルムとして残っているからできる何かがある。
今回の写真集は適度な判型サイズで、35mm を伸ばした時のあの粒子感がちょうどいい。
フィルムの粒子が、雪や光の粒子と相まって、非常にいいなって。

渡辺 「何でフィルムで撮ってるの?」と聞かれるけど、本当はフィルムでもデジタルでもいい。
でも、紙に落として見た時にデジタルの写真はシャープネスが効いて鮮明。
自分の中で明確なんだけど、そこに行った時に自分の肉眼で見るものが最高だと思う。
僕の写真を見てもらう時に、自分がそこに行ったようなリアルな映像を見えなくてもいいと思っている。

町口 そうそう。そこも変換の話と通じる。ほどほどに曖昧なほうがいい。
下手とかうまいの議論じゃなく、情報があまりにもしっかりしていると見る欲望がなくなる。
そこも今回の写真集はよかった。

印刷の現場で即興的に始まった対談は、この後も続いた。
今回の写真集が制作過程において幾多のセッションを経て生まれたように、この対話も自然に生まれ、湧き出た。

現場に立ち会い、改めて思ったのは、これだけ多くの人の熱がクロスオーバーした写真集はそうはないだろうということ。
町口は写真構成、色、紙、造本に徹底的にこだわった。
編集に携わり15年以上が経つが、これだけ写真を見る人は初めてだ。
そして、町口をそれだけ熱くさせた写真を撮った渡辺にも、改めて驚かされた。

写真集『雪山を滑る人』は、誇大広告なしに、間違いのない1冊に仕上がった。

編集長 阿部雅彦

 

『雪山を滑る人』制作秘話