旅を重ね、滑走を繰り返すごとに、心は太くなる。
talk about PHOTO BOOK
「ニセコへ行きますよ」
出会ってまだ30分も経っていない頃だった。
アートディレクターであり造本家の町口覚は、さらりと言った。
この瞬間、『渡辺洋一写真集』は新たな一歩を踏み出した。
渡辺洋一は1990年代後半から北海道・ニセコに移住し、スキー、スノーボードの滑走写真を撮り続ける写真家だ。
自ら日々すべり、山と人と向き合い続ける渡辺の写真は、観る者を強く引きつける。
本誌『POWDER SKI』でも創刊当初から活躍。今号の表紙写真も彼が撮影した1カットだ。
7月下旬、町口は渡辺が暮らす北海道・ニセコを訪れた。
冒頭の言葉は、社交辞令ではなかったのだ。
本人曰く、完全アウェーの自然の地へ。
「初めて会った時、古い山岳写真を持ってきた。
こんな感じが好きなんですよと。
モノクロ写真のいい黒が出た1冊。
あれが大きかった」
町口を先鋭的なアートディレクターと見る向きもあるだろう。
しかし、それはある部分では違う。
先人たちの作品を丹念に調べ、目を通し、リスペクトしながらも、それを超えていこうとしているのだ。
最初に会った時も、ニセコで行なわれたミーティング初日も、町口は渡辺の撮影したポジフィルムを1枚も見ることはなかった。
「まずは、話をしないとわからない。
だから、初日はフィルムを見なかった。いきなり写真を見てもね……」
このスタンスは、渡辺の撮影法と重なる。
モデルと向き合い、コミュニケーションを深めてから撮影するのだ
深夜まで酒を飲み、語り尽くしたその翌日、貪るように写真を見始めた。
「千本ノック」と表するように、高い集中力を要するものだった。
作業の間に、一度だけ町口がフィルムを見るのをやめたことがあった。
テレマークスキーヤー高梨穰の写真ファイルを見た時だ。
「モデルの動きに対して、写真家がグルーブしている。
ひとりの女優を撮り続ける映画監督のように。
もうひとつ印象的だったのは、僕から見たら、アラスカや海外は地球で、ニセコは宇宙だった」
膨大な作品の中から、229点がセレクトされた。
そして、渡辺が求めた写真を町口は確実にセレクトしていた。
「小さな頃から、絵本がわりに写真集を見て育ってきた。
写真集をつくる仕事を生業にしているから、写真を見る力には自信がある」
今回の写真集のテーマは「白」。
雪、山、人を写したフィルムには、さまざまな白が表現されている。
「一番カラフルな色が白と黒。そして、白は人工物。
白を表現するためにはインクや紙、印刷すべての相性が大切。
そこが難しい。写真集では本物の白を出したい」
発売は12月初旬。ニセコはもちろん、世界各地で撮影した作品群を掲載する。
「洋一さんの言葉がいいんだよね。
『雪山でスキーヤーを撮り終えた後、カメラをバックパックに入れ、
すべるのが最高。
彼らの気持ちを確かめながらね』。
改めて本物だなと思った」
渡辺洋一と町口覚がタッグを組んで創り出す写真集。
スキー写真を世界へ発信する。
『雪山を滑る人』制作秘話
- From Editor 僕らがつないでいくもの(『大人のスキー 2010』より)
- Special Talk 写真集を読む(『Ski 2010 Vol.2』より)