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  世界が認めた車いす(2/2)

世界が認めた車いす(2/2)

10年前、松永製作所のスポーツ用車いすに転機が訪れた。スポーツ用車いすは、ずっとオーダーメイドでやっていたが、売れなくなって会社もあまり力を入れていなかった。 しかし、他社がスポーティーな車いすを展開し始めたのを契機に、松永製作所でもスポーツをする人のため、日常用の車いすを開発するプロジェクトが始まった。 そして新たな出会いがあった。元車いすバスケットボールの選手が入社してきたのだ。松永製作所では、それまでテニス用の車いすを作っていたが、バスケットボール用も作り始めた。最初は苦労もあったようだが、徐々にいいものが作れるようになった。現在、バスケットボール用車いすのシェアは、半分近くを占めている。 松永製作所のスポーツ用車いす、MPにはアジャスト機能が付いているのが特徴だ。この機能は、初めて車いすを使う人は自分に最適なポジションがわからないので、後で調整ができるようにと考えられたもの。前座高、後座高、車軸位置を調整することができる。コストがかかるので他のメーカーでは採用していない。実は、このアジャスト機能が、思わぬ性能をもたらした。 この機能にはネジで留める部分があるが、ここに遊びが生まれて、車いすがしなるというのだ。このしなりによって力がうまく逃げるので、速いスピードを保ったまま曲がることが可能になった。自動車のサスペンションと同じ原理だといえばわかりやすいだろう。 この特徴は意図して開発されたものではないが「自分たちのエゴだけで作るのではなく、実際に体験して、選手の声をフィードバックして開発する」という基本ポリシーにより、テスト現場で見い出だされたものだ。 この他にも、キャンバーソケットを交換することで車輪のキャンバー角度を変更することが可能で、車輪とボディとの距離調整機能も搭載されている。メンテナンスがしやすく、パーツ交換ができ、微調節可能なMPの特徴が、イギリスチームにも評価されたのだろう。 「世界選手権やパラリンピックの決勝で、日本チームと相手チームが全員松永の製品を使って、メダル争いをしてくれたら最高ですね」(松永社長) 2年後の東京で、松永製作所のMPが躍動する姿を見るのが、今から楽しみだ。 取材・文/辻野 聡 写真/辻野 聡、松永製作所


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