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  未知の領域へ 小椋久美子さん・鈴木亜弥子さん(その3)

未知の領域へ 小椋久美子さん・鈴木亜弥子さん(その3)

鈴木●もうひとつ、ぜひお聞きしたいことがあるんです。小椋さんは全日本選手権で5連覇されましたが、連覇がかかった大会に、どう臨まれたのでしょうか。 小椋●一番きつかったのが2連覇の時です。初めての連覇がかかった大会で、自分で〝連覇〞をすごく意識してしまったんですね。これが途切れたら、もう一度最初からやり直さなくてはいけないと思うとすごく怖くて。これをやったら負ける気がするというような、悪い意味のジンクスみたいなものに縛られていました。 鈴木●たとえば、どんなことを? 小椋●炭酸飲料が大好きだったんですけど、飲んじゃいけないと思って手をつけなくなったとか。 鈴木●ええ、そういうこと? 小椋●変な決まりをいっぱい作ってましたね。でも、オリンピック前のプレッシャーとは違うんです。やらなくてはいけないことがわからないくらい自分を見失う、ということではなかった。自分は一番強いという自信はありました。 鈴木●ああ、それはわかります。私も今はそう思っています。 小椋●自信はあるけど、弱気な自分もいるので、自信をわざと表に出してた。だから、「めちゃめちゃオーラが出てきたね」って初めて周囲に言われたのが、この2連覇の時だったんです。あの時には、絶対に負けないという強い気持ちがありましたね。 鈴木●全日本で連覇するのは本当にすごいです。 小椋●試合前日の夜は眠れなかったです。でも、あれを乗り越えたというのが、その後の人生、いい方向に向いていったと思う。あれで勝てたからこそ、オリンピックに出場できたと思います。 鈴木●それほどのものだったんですね。その後の競技人生を左右するような。 鈴木さんにとっては先日の町田の決勝も、まさにそういう試合だったのではないですか。 鈴木●ああ、そうかもしれません。 小椋●国際大会では、中国にいつも負けていたんです。いい試合だけど勝てない。ある日、今日負けたら、今までと何も変わらないなって思ったんです。それを試合中に痛感して、今日は絶対に勝とうって。 鈴木●試合中に、ですか? 小椋●もう、「いい試合したね」はいらない。もちろん、プロセスや試合内容は重要ですよ。でも、一番大事なのは結果です。いい試合だったとか、いい経験だったというのは大切だけど、それだけでは絶対にダメで、どういう形で勝ったかという勝ち方をどれだけ知っているかがすごく重要だって、思いますね。勝ちを意識するようになったら、負けなくなったんです。 鈴木●深いですね。 小椋●めっちゃダサい試合もしました(笑)。すごくいい試合内容で勝てば、選手としては気持ちいいです。華もあるしスカッとしますよね。でも、長いラリーが続いて相手のミスを誘って勝つみたいな勝ち方もある。 鈴木●ありますね、長いラリー。 小椋●そういう山を越えると、その時の経験がその後に生きてくるし、経験値が増えると試合中に余裕が生まれるんです。 鈴木●私も、町田の決勝で対戦した中国の選手に、それまでに2回負けてたんですね。だからここで負けたら、もう鈴木はこの中国選手には勝てないって周りに思われるだろうな、そう思われたら嫌だなって思ったんです。ここでどうしても優勝したい、金メダルが欲しいってすごく思って臨みました。カッコよく勝つ必要はないけど、とにかく1点ずつ得点を重ねていこうって。カッコよく決める1点と、ラリーして決める1点は実は、同じ1点だから。 小椋●まったく同じこと、思ってました。私はそれにプラス、相手がミスしても1点だって。自分のコートにシャトルを落とさなければ失点しない(笑)。 鈴木●本当! おっしゃる通り! 小椋●ネットを挟む競技って、そういう意味ではいろんな勝ち方、得点の仕方がある。バドミントンってこっちが息を吹き返してきたら相手が焦ったりする。その気持ちの波、流れやリズムが必ずあるんですよね。考え方を変えるだけで試合を変えることができる。 鈴木●対戦相手を見て、今ちょっと焦ってるのかなって思うこともありますよね。 小椋●それがわかるのはめちゃくちゃ余裕がある。焦っている時は無意識にいつも通りの癖が出てしまう。だから、相手が打ち込むコースがわかりますよね。 鈴木●反対に自分に余裕がなければ、やっぱりいつものコースに打ってしまいがちで、相手がどこにいるからこういう球を打とうという発想が生まれないですね。 小椋●バドミントンって、メンタルスポーツなんですよ。 * 幼い時からバドミントンを続けてこられたわけですが、そのバドミントンの魅力は何でしょうか。 小椋●すごく奥が深いところ、ですね。ひとつのショットにしても打つ体勢によって質や弾道が変わります。やっても、やっても、まだまだ先がある、奥がある、というのがプレーしていてすごくおもしろい。バドミントンって身体が小さくても勝てるし、頭脳や球際のセンスで身体の大きな選手を打ち負かすこともありますよね。勝つパターンもひとつじゃない。 鈴木●私もすごくそう思いますね。私は足は速くないですし、陸上競技選手だったら、パラリンピックに出場できない(笑)。身体が大きい人や、運動神経がいいというだけで勝つわけではなく、自分のショットを工夫して勝つことでやっぱり喜びがあります。自分の弱点をわかった上で、じゃあどんなショットだったら相手に勝てるかということを追い求めていけるんですよね。 小椋●そう、バドミントンってどんな人にもチャンスがあるんです。どこまでも追求できる。そこが魅力だと思いますね。 日の丸を背負う、ということで大切にしていることはありますか。 小椋●当時、「感謝」ということを口すっぱく言われていました。あなたが日本代表として日の丸を背負うことで、あなたのその場所に立ちたかった選手がたくさんいる。そういう人たちの気持ちも背負って戦いなさい、と。それを言われるようになってから、自分がどういう状況でも責任をもって試合に臨まないといけないと強く思うようになりましたね。海外遠征にしても、代表であれば国の税金を使わせてもらったり、あるいは会社が負担してくれているわけです。自分ひとりで競技を続けられているわけではないということを、自覚するようになりました。 鈴木●感謝は本当に大切ですよね。会社という組織のなかで練習の時間をいただけていること、体育館があることで、私が競技を続けていくための環境が整っている。すべてに感謝です。この環境がなければ今の私の結果は出せていません。それを感じつつ、自分がどこまで挑戦できるか。そこを目指して今も進んでいます。 鈴木選手の東京パラリンピックの目標は。 鈴木●やっぱり、金メダルが目標です。 小椋●鈴木選手には東京パラリンピックの舞台に絶対に立って欲しいって思っているんです。今、私が鈴木さんとこうやって北京オリンピックの頃の経験などをお話しできるのも、その場に立てたからこそ。鈴木選手が世界最高峰の舞台に立って初代チャンピオンになるところをぜひ見たいと思っています。


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