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  レーシングカー開発で培われたカーボン成形技術 東レ・カーボンマジック株式会社(その2)

レーシングカー開発で培われたカーボン成形技術 東レ・カーボンマジック株式会社(その2)

競技用義足を開発するうえで難しいのは、人間の身体の一部になるということ。バネ=筋肉と構造=骨の機能を、板バネだけで賄わなければならないからだ。 「違和感なく使えて、地面を踏み込んだ時の上向きの力を、いかに前向きの力に変えるか。選手によって、走り方、体格、筋肉の付き方が異なるなかで、どれだけ人への適合性を見いだせるかで、どこまで義足の性能を引き出せるかが変わってきます」 健常者よりも速く走ることは、技術的には可能なのだろうか? 「理論的には人間の筋肉のバネ性よりも高められると思います。しかし、いくら義足の性能を高めても、それを装着した人間が使いこなせないと何にもならない。競技用義足は、人の脚力に応じて積層構成を変えるのですが、いちばん踏み込んだ時に100㎜以上たわんでいます。カーボンコンポジット素材を、ここまで限界に近いところまでたわませて使うというのはそうはない。究極の使い方かもしれません」 このようにカーボンコンポジット素材の性能を極められるのは、東レ・カーボンマジックが「オートクレーブ法」という製造方法を得意としているから。 オートクレーブ法とは、型にプリプレグ(カーボンシート)を何層にも張り合わせ、型をバッグフィルムで覆って空気を抜いて密着させ、オートクレーブで加熱・加圧して硬化させる成形法のこと。 手間とコストがかかり大規模な施設が必要な反面、成形の自由度が高く複雑な形状のものも作ることができ、ある方向への強度を高めたり、変形量を制御したり、材料の物性を設計することができる特長をもっている。 東レ・カーボンマジックは、近年の目覚ましいカーボン技術の進歩により、求める性能を引き出せるようになり、また15年にタイに第2工場を建設。生産能力を拡大し、さらなるコストダウンを実現。 これらの理由により、カーボンコンポジット製品が広く使われるようになってきた。 しかし、製法は依然として手作業に依存しているので、高い強度を保ったまま量産化できるような技術が開発されれば、さらにコストダウンが可能になり、カーボンコンポジット製品が今まで以上にもっといろいろな用途に使われるはず。カーボンには、まだまだ可能性が秘められているのだ。 近い将来、義足使用者の誰もがカーボン製の競技用義足を使用して走れる日が、きっと訪れるに違いない。   奥 明栄(おく あきよし) 1956年生まれ。79年に株式会社童夢に入社し、レーシングカーなど約30機種の設計・開発を担当。カーボンコンポジット製法も考案。13年に東レ・カーボンマジックの取締役副社長兼CTOに就任。現、東レ・カーボンマジック株式会社 代表取締役社長


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