新・あの人に聞きたい私の選んだ道
第14回
福田智弘さん
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PROFILE
1965 年埼玉県生まれ。1989 年東京都立大学 ( 現・首都大学東京 ) 人文学部卒業。教育系出版社の営業・開発職,印刷会社の編集・デザインディレクターを経て,現在,国内外の歴史,古典文学関連を中心に,精力的に執筆活動を行う作家として活躍中。

資料として使う古書と福田さんの著書。著書では戦前の教科書を紹介している。「古書はさっき浅草で買ってきました(笑)。」
いろいろなことに挑戦した十代
 私は,埼玉県の生まれです。その後,何度か引っ越しも経験しているのですが,ずっと埼玉県内で暮らしています。  幼稚園の年長さんのときにも引っ越しをしたので,幼稚園の記憶はほとんどありません。普通は幼稚園の友だちと一緒に小学校に上がって,幼稚園の頃の思い出話などをすると思うのですが,私はそういうことをしていないので,記憶が頭に刷り込まれなかったのでしょうね。
 社会人になってから,仕事で取材をしていた相手が,しばらく話を聞いているうちに同じ幼稚園に通っていた幼馴染だとわかり,お互いに驚いた,なんてこともありました。
 中学時代は,今はもうほとんどないでしょうが,男子は全員丸刈りにするという校則のある学校に通っていました。のちに隣の市にある中学校に転校したのですが,そこは丸刈りが義務ではありませんでしたから,私は「丸刈り校則」を経験したかなり最後のほうの世代だと思います。
 中学校では野球部に入りました。野球は当時,花形のスポーツで,どの学校でも部員数は今より多かったと思います。自分は補欠でしたし,辛いことも多かったのですが,3年間はなんとか続けましたね。
 高校では「体育系は,もういいや」と思い,ギター同好会に入りました。ところが高 1 の秋頃,同級生が,体が大きかったわけでもない私をなぜか相撲部に誘ってきたのです。ちょうど体もなまってきた頃だったので,その誘いにのり,入部を決めました。高校の相撲には体重別の階級があり,75kg 未満は軽量級でした。私は当時 63kg と,軽量級のなかでも重いほうではなかったのですが,県大会で優勝したこともあるんですよ。


衝撃的な小説との出会い
 今は物書きの仕事をしていますが,中学・高校くらいまでの私は,ほとんど本を読まない人間でした。せいぜい読書感想文のために読むくらいでしたね。そういうときでさえ『スターウォーズ』や『銀河鉄道 999』といった,映画やアニメの原作本を読んでいたほどで,純文学などのまじめな本を読むのは嫌いでした。しかし,その割には国語の成績だけは,なぜかよかったですね。
 その代わり,漫画はよく読んでいました。永井豪さんや本宮ひろ志さんが好きで,子どもの頃は自分で漫画を描いてみることもありました。文学は嫌いでしたが,物語をつくることには興味があったわけです。
 そんな私に衝撃的な出会いがあったのは,高校時代でした。新聞に,橋本治さんの『桃尻娘』という小説の広告だか書評だかが載っているのを見つけたのです。この『桃尻娘』は,ひとりの女子高生の日常を,軽いタッチで描いた一人称の小説です。私はそれを見たときに,「今の自分の感情に近いことが書いてあるのではないか? これはぜひ読んでみたい!」と思い,すぐに書店で文庫本を購入したのです。予想通りとても面白く,最後まで一気に読み終わりました。
 この本の主人公は,当時の自分と同じ,普通の高校生です。しかし,心のなかでは,大人社会への反発,自分自身への漠然とした苛立ちなどいろいろなことを感じ,考え,それを言葉にしています。そんな点にすごく共感できたのでしょう。ただし,ちょっとエッチな部分もあるので,中学生のみなさんが読むのには,要注意ですけれどね(笑)。
 とても面白かったので,友だちに「これはいいぞ!」と言って回し読みをさせました。私の友だちにも小説などはあまり読まないという人が多かったのですが,その本は,とても好評でした。もっといろんな人に読んでほしいと思い,卒業するときには高校の図書館に 1 冊寄贈したくらい,この本との出会いは衝撃的でした。
 また,著者の橋本治さんが東京大学の文学部卒だと知り,「お固い小説を書く人だけでなく,こんなに面白いものを書く人も,ちゃんと文学部で学んでいたんだ!」という驚きもありました。将来的に文学作品を書こうとまでは考えていませんでしたが,物語をつくるのは面白そうだ,という思いは漠然とあったので,それなら文学部に入ったほうがいいのかなと思うようにもなりました。
 現実的なことを言えば,国語の成績がよかったから文学部を志望した,というのも正直なところですね(笑)。当時から,ある程度の進学校の生徒であればみんな大学へ進む道を選びますし,それならば得意分野で,興味もあり,抵抗の少ない道を選ぼうという考えがあったのは事実です。


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