第43回 さわやか福祉財団理事長 堀田 力さん

科学の好きな人が集まって子供たちに土日に教える『わくわく科学教室』というのがあります。サラリーマンのボランティアにもなるし,子供たちの勉強にもなります
きっかけは「大阪浴場事件」
 そんなわけで,本格的に司法試験に取り組み始めたのは四年生の時ですね。受験に間に合わないから留年するしかない。授業料は家庭教師などのアルバイトをして全部自分で稼いでいましたから,親は「まぁ,いいよ」と言ってくれました。それで一年間勉強して五年生で受かる予定だったんですが,見事に落ちてしまいました。それで,大学院に進んで大学院の一年生でやっと受かりました。試験に受かったときはうれしかったけれど,試験については「なんでこんなくだらないことを覚えなきゃいけないんだ」という疑問がありました。試験問題が悪い。だから後年,法務省人事課長になった時に問題のつくり方を根本的に変えちゃいました(笑)。暗記しなくても考える力があれば受かるようにしたのです。
 検事を志望したのは大学四年の時に「大阪浴場事件」というのがありまして,大阪地検特捜部が十数名の府会議員を芋づる式に逮捕していったんです。当時は各家庭に風呂がないから銭湯が大繁盛だけれど,銭湯を開業するには規制があってなかなか許可が下りないんですね。その府の許可をもらうため,議員が口利きをして銭湯の経営者から賄賂をもらったという事件だったのですが,私はその時はじめて検察庁に特捜部というものがあるのを知ったんです。警察がなかなかやれないような権力犯罪,特に汚職なんていう全く秘密裏に行われている犯罪を調べて摘発するんですから「おお,特捜部というのはなかなかいいじゃないか」と。それで検事になろうと思ったんです。
 検事になって最初の配属先は札幌地検でした。人を調べるというのは難しいんです。まぁ,悪いことをした人は自分のしたことを言いたがらない。誰だってそうですよね。そこをきちんと相手から聞き出して,罪を清算して更生するところまで持っていくわけですから,それはなかなかやりがいのある仕事ですよ。
 だから,「配点」といって上司が部下に事件を割り振っていくんですけれど,普通の人はだいたいあんまり難しい事件を欲しくないし,事件の数も少ない方がいいっていう感じなんですが,私はなんとしても難しい事件が欲しいし,数もいっぱい欲しい(笑)。本当は汚職事件をやりたい一心で検事になったのに,初めはコソ泥とか無銭飲食とかそんな事件ばかりやるんですね。ところが,そういう事件でも本当にやりがいがあると思いました。ここで許すのか,起訴して処罰するのか,その判断がなかなか難しいんです。その人の人生を左右するんですから。だから,それまで自分の頭にあんまりなかったコソ泥とか無銭飲食とか,そういった事件が実は本当に大事なんだということを実感しましたね。


念願の特捜部配属
 その後,旭川地検,大津地検を経て,検事の道に進むきっかけとなった大阪地検特捜部に配属になりました。特捜部の仕事というのはほかの検事の仕事とは全然違うんです。特捜部以外は警察から送られてきた事件を扱うのですが,特捜部の事件は全く警察の関与なしに自分で掘り出すところから始まり,内偵して証拠を固め,逮捕状を取って逮捕する,というように全部検事がやるわけです。
 当時の特捜部では私が最年少でした。あのころは検事が千二百人ぐらいいて,大阪地検の特捜部が十人ですよ。だからなかなか入れないんですが,この特捜部に入りたくて,それまで私はあちこちの地検で警察の手を入れない選挙違反などの事件を,やらなくてもいいのに勝手に掘り出してやってましたので特捜部長が引っ張ってくれたんでしょうね。
 その大阪地検特捜部にいた時に「タクシー汚職事件」というのがありました。新聞で,LPG(プロパンガス)に課税するという大蔵省の動きに大阪のタクシー業界が反対して運動しているという記事を見て,これはタクシー業界が賄賂をやっているのではないか,とにらんだのです。それですぐ情報集めにかかったら,タクシー業界がだいぶ金を集めて政治家に渡しているというのをつかみました。それでいろいろな人間関係を調べて,タクシー業界と取り引きのある銀行に入り,タクシー業界の金の動きを帳簿から見ていったんです。すると議員のところへ金が渡っていることがわかったんです。ただ,いきなりそれで逮捕するわけにはいかないから,タクシー業界の幹部を他の罪で逮捕できるような事件がないか調べて,横領とか脱税とかで逮捕状を取った。タクシー業界を始めとする関係各所に大阪地検が一斉にガサ入れ(家宅捜索)をするまでにこぎつけられた時はうれしかったですね。


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