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千街晶之

『放課後はミステリーとともに』刊行によせて 特別インタビュー 東川篤哉、ユーモアと推理の融合

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構成・文/ 千街晶之 写真/ 蟹 由香
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東川篤哉(ひがしがわ・とくや) 1968年広島県生まれ。岡山大学法学部卒。2002年カッパ・ノベルス新人発掘シリーズ『密室の鍵貸します』でデビュー。主な著書に『学ばない探偵たちの学園』『殺意は必ず三度ある』『ここに死体を捨てないでください!』『謎解きはディナーのあとで』など、ユーモア本格推理の書き手として評価を得ている。

ユーモア・ミステリ一筋で時代の波に乗った

――東川さんは『謎解きはディナーのあとで』(小学館)がベストセラーになって、一気に知名度が上がった印象ですが、なにか環境の変化はありましたか。

東川: 環境の変化ですか……電話がよくかかってくるようになったとか(笑)。今まで全然電話は鳴らなかったのに、今は毎日どこからかかかってきます。短篇の締め切りが毎月あって、仕事は増えてますが、生活自体は変わらないですね。住んでいるところが変わってないんで……学生が住むようなアパートにいますから。

――『謎解きはディナーのあとで』は女性読者に好評と聞いていますが、読者からの反応を直接目にする機会はありますか。

東川: 残念ながら、ないですね。読者よりはむしろ書店員さんの反応が多くて……書店廻りを東京と関西でやったのですが、その時の反応が良かったですね。

――今回のブレイクに関しては、何が原因だと自己分析しておられますか。

東川: いろいろあるんですが、きっかけは書店員さんが取り上げてくれたというのがあるし、タイミングよく朝日新聞さんに記事が載ったりとか、そういうのもあるけど、ユーモア・ミステリだからこんなにヒットしたのではないかと思いますね。逆もまた真で、以前売れなかったのもユーモア・ミステリだから受け入れられない時代があった気がするんですが、そういうのはころっと変わるものなんじゃないかと。

――その、ころっと変わった原因というのは。

東川: これは僕が勝手にそう思っているだけなんですが、本格ミステリが流行(はや)ったあとに社会派ミステリが流行って、そのあとにユーモア・ミステリが流行るんではないか……というのが持論なんです。簡単に言うと、’60年代の本格黄金時代があって、’70年代の社会派があって、’80年代には赤川次郎さんが流行った。そのあとは歯ごたえのあるものを読みたくなるから新本格のブームが来て、それが飽きられると社会派ミステリっぽいのが読みたくなるから、警察小説ブームがありましたね。そういうわりと堅い話を読んでいると、今度は軟らかい話を読みたくなってユーモア・ミステリの時代が来る……そういう流れがあると僕は思ってるんですよ。だから、横山秀夫さんや今野敏さんの警察小説が流行っている頃に、「次はユーモア・ミステリのブームが来るんじゃないか」と、僕にいいほうに解釈したんですが(笑)、実際、風向きが変わってきたんじゃないかと。

――世の中が暗いから、明るい話が読みたい、という傾向もあるかもしれませんね。

東川: そうですね。リーマン・ショック以降、不況が長引きすぎて、それでユーモア・ミステリを読み始めたのか(笑)。

――デビュー当時からユーモア・ミステリ一筋で、全くブレがないですね。

東川: これしか書けない、という感じなんですけどね。光文社の<カッパ・ワン>というコンテストで声をかけていただいて、応募する時に、何が書けるかを考えたら、あまりシリアスなものは書けないという感覚があって、ユーモア・ミステリで応募しよう、と。あの時は、鮎川哲也さんの『本格推理』の投稿者十八人くらいのコンテストだったんですよ。たぶんほかの人はユーモア・ミステリで応募してこないだろう、とも思いましたね(笑)。

――見事な読みですね(笑)。ユーモア・ミステリには自信がありましたか。

東川: 自信があったというわけでもないんですが(笑)、結局語りたいのはミステリとかトリックとかですけれど、話を回していく中にストーリーが一本、普通はあるじゃないですか。そのストーリーをどう語るかがよくわからなかったので、コントじゃないけど、常に笑いの方向に転がしていって、書き切ってしまうというスタイルはどうかな、と。それは逆に珍しいですからね。それが僕に一番合っていたということだと思います。

――トリックとギャグとキャラクターは、どういう順番で考えていくのでしょうか。

東川: シリーズものの場合はキャラクターが最初にありますけど、やっぱり最初に考えるのはトリックですね。そのあと登場人物、そしてこのシチュエーションならこういうギャグを入れられるな……という感じです。

――トリックやギャグはどういう時に思いつきますか。

東川: 何かの拍子に思いつくことが多いかな。あと、ファミレスとかで考えて思いつくこともありますし。他の人の作品を読んで、自分もこういうトリックを……と思って考えつくこともあります。島田荘司さんの『斜め屋敷の犯罪』が好きだから、そういうのを……と思って『館島』(やかたじま、東京創元社)を思いついたり、とか。

――ユーモア・ミステリとして、憧れる理想の作品はありますか。

東川: デビュー当時の赤川さんが好きでしたね。でも、どの作品が……という感じでもないんですよね。一番好きなのは『死者の学園祭』ですが、あと『三毛猫ホームズの推理』のあのトリックは好きですね。でも、ユーモア・ミステリというわりには僕はあまり読んでないのかな。

『放課後はミステリーとともに』は探偵役に創意工夫

――――さて、新作の『放課後はミステリーとともに』は、『学ばない探偵たちの学園』『殺意は必ず三度ある』(ともに小社)に続く鯉ケ窪学園探偵部シリーズの三冊目で……と言いましたが、そういえば、このシリーズの正式な名称はなんというのでしょうか。

東川: シリーズ名はないですね(笑)。シリーズというより舞台ですね、光文社で書く時は烏賊川(いかがわ)市だし、実業之日本社だと恋ケ窪が舞台……というふうにとらえていただければと。一番最初に書いたのは、今回の第一話「霧ケ峰涼の屈辱」なんです。そのあとに担当の方から長篇を書いてと言われて、「学園もので」ということでしたっけ? たぶんそんな感じだったと思います。

――発表年代を見ますと、短篇第二話「霧ケ峰涼の逆襲」までに間隔がありますが、このあいだに長篇の『学ばない探偵たちの学園』を書いていたんですね。赤坂・多摩川・八橋の三人組が出てくる長篇二作と、霧ケ峰涼が出てくる短篇は、時系列的にはどういう関係ですか。

東川: 一応、並行しているつもりだったんですけど、特にリンクしてないという(笑)。霧ケ峰を書いているうちに部長(多摩川)が出てくるかなと思っていたら、出てこないまま終わりました。

――顧問の石崎先生は両方に出ていますね。

東川: リンクはそれくらいかな。一話が短いから、他の人を出す余裕がないということでもあったんですが。シリーズものとしてのちゃんとした設定はあまりないまま書いているというのが実際のところです。

――三人組や霧ケ峰といった主人公はいますが、それとは別に意外な人物が探偵役を務めるというのが共通点ですね。

東川: 三人組のほうは、あまり探偵役が出来そうな人がいないというか(笑)。ちょっとアホに書きすぎて、誰かがすらすら謎を解くと違和感があるので、苦肉の策みたいになってます。霧ケ峰涼も同じで、名探偵として謎を解く感じでもないので、第一話と第二話は石崎先生が謎を解いていますが、その調子で続けるとまずいなと。それだと『石崎先生の事件簿』になっちゃいますよね……結果的に『放課後はミステリーとともに』になってますけど、書いている時は『霧ケ峰涼の事件簿』とかそういうタイトルのつもりでいましたから。それで第三話から毎回探偵役を変えて、時々は霧ケ峰涼も謎を解くというかたちにしました。多少バランスをとって、主人公で探偵でもあるけどそうでない場合もある、と。

――長篇では殺人が起きますが、短篇は人が死なない話で統一されていますね。

東川: 要するに、霧ケ峰涼という探偵の前に死体が転がるというのがちょっと違和感があるというか。あの三人組が死体を見つけてもそんなに違和感はないのですが。しかも短篇だから、ひとつひとつに死体を転がすと、同じ学園で七つも八つも死体を見ることになりますし(笑)。事件らしい事件は起こるけど人は死なない、それが唯一の縛りらしい縛りですね。

――第一話の時点では、霧ケ峰涼のシリーズ化の予定はあったのでしょうか。

東川: 僕としてはそうあってほしかったですが、第一話をいいものに仕上げなければ次がないというか、何かインパクトを与えなきゃと。それでああいう話になっているんです。

――最初の「霧ケ峰涼の屈辱」と最後の「霧ケ峰涼の二度目の屈辱」が、同じようなシチュエーションを扱っているというのが珍しい試みですね。

東川: 第一話の変奏曲みたいになっていますよね。どこから発想したのかな。最終回っぽい話を書こうとして書いたんでしょう。あと最後だから、また石崎先生を出さないと……というのもありました。

――国分寺にお住まいだそうですが、このシリーズで地元が舞台なのは。

東川: 光文社のシリーズで烏賊川市を書く時は、特定の場所にするといろいろ制約があるので架空の街を舞台にすれば発想しやすいのではないかということで書いたのですが、意外とそうでもない(笑)。架空の街も難しいなということもありましたし、また別の雑誌で別の架空の街を造るのも変な話ですし、じゃあ地元でいいや、と(笑)。恋ケ窪という地名も面白いと前から思っていました。でも、恋ケ窪っぽさはあまり出ていないので、ちょっと失敗したな、と(笑)。地元の人が読んだらがっかりするかもしれません。まあ、架空の学園の中で大体話が進みますから、地元っぽさは出しにくかったというのもあります。

主人公・霧ヶ峰涼の今後とタイトル決定裏話

――鯉ケ窪学園探偵部シリーズの今後の予定をお聞かせ下さい。

東川: 霧ケ峰涼のシリーズはまだ続きます。今回は春から始まって秋のはじめくらいで終わってるんで、今度は秋・冬バージョンを書くことになると思います。これってみんな基本的に不可能犯罪ネタになっていて、そのへんが『謎解きはディナーのあとで』と違うので、このさき書き続けられるのかな(笑)。あと長篇はわからないです。僕はあの三人組に愛着はあるけど、あんまりうまくいかなかったな、と。

――シリーズ中、特に気に入っている作品はありますか。

東川: 「霧ケ峰涼の逆襲」がちょっと変わってるかな、と。僕にしては珍しい感じで……本格としては無理矢理な感じもしますが。あと「霧ケ峰涼とエックスの悲劇」ですかね。このトリックは実は十年くらい前に考えたんですよ、『本格推理』に投稿していた頃に思いついて、「これを鮎川先生に読んでもらおう」と思っていたんですが(笑)。いざ書こうとするとうまく書けなくて、そのままほったらかしになっていたトリックがやっと作品になったという思い入れがあります。それと「霧ケ峰涼の絶叫」は、シリーズで一番バカっぽいというか変というか、異常におバカなほうへおバカなほうへ……と自分でも思います。コメディ色が強いというか、ちょっとやりすぎたのかも(笑)。

――ところで『放課後はミステリーとともに』というタイトルは、ブレイクのきっかけとなった『謎解きはディナーのあとで』と、そこはかとなく似ていますが(笑)。

東川: 僕も『霧ケ峰涼のなんとか』という感じのタイトルになるだろうと思っていたんですが……。

編集担当: 私はミステリ読者受けを考え、エラリー・クイーンを想起させる『霧ケ峰涼とエックスの悲劇』をタイトルにしたいと考えてたんですが、『謎解きはディナーのあとで』が出たものですから(笑)。

東川: 担当の方が「『謎解きはディナーのあとで』みたいなタイトルを」とはっきり言ったので、候補を二十くらい考えたんですが、全然違うようなタイトル案ばかりだから、それだと申し訳ないと思って『謎解き~』と似たようなタイトルもひとつ入れておいたら、ずばりそれを「これがいい」と(笑)。しかし、表紙のデザインも似てますね(笑)。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

東川: 第一話から順番に読んで下さい、とか……。一話完結の謎解きミステリで、フェアプレイも考えて書いているんで、読者の皆様も推理しながら読んでもらえたら嬉しいかな、と思います。

構成/ 月刊ジェイ・ノベル編集部
※本特集は月刊ジェイ・ノベル2011年3月号の掲載記事を転載したものです。