やまがた 名山の旅

2015.10.20

山形県には「日本百名山」に数えられている山が六つもある。
鳥海山(ちょうかいざん)、月山(がっさん)、蔵王山(ざおうさん)、朝日岳(あさひだけ)、飯豊山(いいでさん)、吾妻山(あづまやま)…と、山を知っている人間であれば、いつかは登ってみたいと思う憧れの名峰揃いだが、中にはたどり着くのも容易ではないほど山深い名山もある。
そんな山々が名を連ねる中、比較的登りやすいとされ、庄内平野から美しい山容を望める鳥海山と月山を中心に、その周辺の見どころを含めた魅力についてここで取り上げてみたい。

鳥海山(ちょうかいざん)

鳥海山
月山・弥陀ヶ原から望む鳥海山

庄内平野に広がる田んぼの奥にどっしりと横たわる、鳥海山の端正な姿は実に美しい。“出羽富士”という異名を持つのも頷ける。
鳥海山へ登るのにおすすめしたいルートは、鳥海山の南側にある湯ノ台登山口から入山するコース。複数ある登山ルートの中では、この湯ノ台登山口(車道終点)から山頂へ向かうアプローチが距離は短い。その分、急斜面を登っていくことになるが、振り返れば月山をはじめ朝日連峰から蔵王まで脈々と連なる峰々が見えるほか、南西側には庄内平野と日本海を見下ろせるすばらしいパノラマが広がる。
道中には、真夏であればミヤマキンバイ、アオノツガザクラ、チョウカイアザミなどといった高山植物が咲き乱れる中を歩くことになる。写真は秋に撮影しているものだが、初秋であれば高山植物の花がわずかに残っていることもあるようだ。

鳥海山アザミの花
(左)夏が過ぎても雪渓が残る鳥海山/(右)固有種・チョウカイアザミの花

登り始めて3時間40分ほどで、外輪山である伏拝岳(ふしおがみだけ)に到着。ここに立って初めて鳥海山の山頂である新山(2236m)の姿を拝むことができる。山頂直下に大物忌(おおものいみ)神社と山小屋が鎮座しているのを左手に眺めながら、外輪山の稜線を歩いて奥羽山脈のすばらしい眺望を楽しめる。
そして登山開始から約5時間20分。ゴツゴツとした足場の悪い岩場を登りつめると20名を超えて立ったらいっぱいになってしまうような狭い山頂に到着。山頂からは、男鹿半島をはじめ奥羽山脈などの展望が広がる。

男鹿半島方面
鳥海山山頂から男鹿半島方面を望む

山頂までも長い行程だが、鳥海山の西側である吹浦口(大平山荘)へと下山するルートも、途中に2.5㎞ほどお花畑が続くといわれる場所や、鳥海湖のほとりを歩くなど、変化に富んだコースを7km以上かけて下っていく。
ここで紹介した、湯ノ台口から山頂を目指して吹浦口へ下山するコースは、実に素晴らしいルートである。山頂までの登りは月山や庄内平野を後ろに見ながらの登りとなり、外輪山を歩きながらの展望も楽しめ、広大なお花畑の中を長い時間をかけて下る総行程距離約13kmのルート。
鳥海山を 訪れたのは秋が深まりゆく季節であったが、真夏に高山植物が咲き乱れるときにもう一度登ってみたいと思わせる魅力にあふれていた。登山口へと下山口からの足の確保にやや難点があるのだが、たとえば4名で登って送迎タクシーの交通費を頭割りにするなどしてでもこのルートで登る価値はあるだろう(JR酒田駅から湯ノ台登山口車道終点まで、タクシーで約1時間)。

胴腹滝(どうっぱらたき)
鳥海山の山腹から伏流水が湧き出して流れているのがこの滝。落差はさほどないものの、二条に分かれた左右の流れで味が異なるといわれている。飲み比べてみて、好みの水を汲んでいくといい。なお、滝の周辺ではクマの目撃情報も多いので注意。JR遊佐駅からクルマで約10分。

胴腹滝
胴腹滝。上流の滝から伝った二本の樋より左右の滝の水を味わえる

月山(がっさん)

朝日連峰方面
紅葉に彩られる月山山頂付近から、南部の朝日連峰方面を望む

東北地方を代表する霊峰・出羽三山のひとつである月山。
この山もまた数多くの高山植物が咲き乱れる山として知られ、その規模は鳥海山のお花畑を凌ぎ、本州でも屈指の花の楽園が広がっている。1984mの山頂付近では夏になるとハクサンイチゲ、クロユリ、チングルマ、ミヤマウスユキソウ、ハクサンフウロなどが花開き、登山者の目を楽しませてくれる。

ハクサンフウロ
ハクサンフウロ

月山北部に位置する湿原・弥陀ヶ原(みだがはら)の登山口から登り始め、月山山頂を通過し、南側にあるリフトを利用して姥沢(うばさわ)登山口へと下山するルートは公共交通機関でアクセスできるため、多くの登山客でにぎわっている。また、夏の遅くまで残雪があり、夏スキーを楽しめる山としても知られている。
通常、月山の紅葉は9月下旬から10月上旬にかけてだが、2015年の月山山頂は例年よりも10日ほど色づきが早かったという。それでもところどころにかわいらしい花々が、数は少ないながらも足元を彩っていた。
弥陀ヶ原から姥沢までの歩行時間は約5時間のコースだが、そこまで歩くのはつらいという人は、弥陀ヶ原周辺の散策遊歩道(約2.2km)を歩くだけでもいい。弥陀ヶ原から望む鳥海山も絶景だ(弥陀ヶ原・月山八合目までは、JR鶴岡駅から庄内交通のバス羽黒山頂行きで終点下車、そこから夏季運行のバス月山八合目行きに乗り換え)。

羽黒山(はぐろさん)
月山、湯殿山(ゆどのさん)と並び、出羽三山のひとつとされているのが羽黒山。
山麓には国宝の五重塔があり、杉木立の中に続く2446段の石段を登りつめると出羽三山神社三神合祭殿へと着く。下から石段を登っていくと1時間ほどかかるのだが、その長い登りを楽しみながら登る方法がある。
実は表参道の石段には、徳利や杯、蓮の花やひょうたんなどの絵が33箇所ほど彫られていて、それらは江戸時代に作られたといわれている。そして、その33個すべての彫られた絵を見つけられれば幸せになれるのだとか。とはいってもかなり磨耗しているものもあるようで、実際に全部を見つけるのは難しいようだが、足元を気にしながら登りつつ、これは思いのほか楽しい石段登りになる。

羽黒山五重塔瓢箪と杯
(左)羽黒山・五重塔/(右)羽黒山・石段に彫られた瓢箪と杯

いけのみたま心願参り
三神合祭殿の前には鏡池という聖なる池があり、そこでは「いけのみたま心願参り」という体験ができる。山伏の方の案内によって聖なる鏡池の前で納鏡し、願い事を書いた紙を合わせて水の上に浮かべて祈願するもので、江戸時代中期に途絶えていた習わしが現代によみがえった(羽黒山レストハウスにて要受付。料金2000円には、山伏の案内、納鏡用鏡、願い事を書く紙、御守りが含まれる)。
霊験あらたかな空気が漂う中、山伏による特別な納鏡祈願をおこなってみるのもいい(羽黒山までは、JR鶴岡駅から羽黒山頂行きのバスが運行)。

羽黒山・いけのみたま心願参り


ここで紹介した鳥海山、月山へチャレンジする山旅は、最低でも2泊3日は必要。登山ルート上にも山小屋はあるが、早朝出発で行動すればいずれの山も日帰りで登山を楽しむことができる。
堂々とした山容の鳥海山、たおやかな姿の月山、そして厳かな雰囲気が漂う羽黒山。古くから信仰の山として、多くの人々の畏敬の念を集めてきた歴史ある山である。
間もなく冬支度の季節へと入っていくが、厳しく長い冬があるからこそ、一瞬の夏の美しさを誇らしげに見せてくれる。そんな魅力をたっぷりと秘めているのが、山形県の名山たちである。


【やまがた 名山の旅で味わいたい食事処】

羽黒山 斎館

精進料理の一例
斎館で味わえる精進料理の一例
羽黒山の参道脇にある参籠所で、精進料理を味わうことができる。山麓で採れた山菜やタケノコなどを、羽黒山で受け継がれてきた調理法で提供される。ごま豆腐のあんかけのことを「出羽の白山島」と称するなど、それぞれの料理に隠語で名前がつけられているところもおもしろい。
■http://www.dewasanzan.jp/publics/index/64/

鶴岡料理 すず音(鶴岡市)

郷土料理の一例
すず音・郷土料理の一例
地元でも非常に人気が高い郷土料理店で、常ににぎわっている。旬の素材を使って丁寧に作られた料理をたっぷりと味わえる夜のコースも、月替わりのコース料理(10品ほど)で3000円~と実にリーズナブル。何度でも足を運びたくなる店。
■http://suzune-tsuruoka.com/

【やまがた 名山の旅でおすすめのお宿】

湯の台温泉 鳥海山荘(酒田市)
目の前に鳥海山がそびえるロケーション。夏の「岩がきコース」、冬の「寒だらコース」をはじめとする
料理長おまかせコースなど、料理も自慢の宿。
■http://www.choukai.jp/choukaisansou/

東京第一ホテル鶴岡(鶴岡市)
JR鶴岡駅から至近という便利な立地。天然温泉浴場もあり、宿泊客以外でも立ち寄り入浴できる。
ショッピングモールも隣接している。
■http://www.tdh-tsuruoka.co.jp/