「許されざる花嫁」書影

許されざる花嫁

赤川次郎 ( アカガワ ジロウ )

A6判 208ページ

2013年06月05日発売

価格 545円(税込)

ISBN 978-4-408-55127-2

在庫あり

夫を捨てた女の再出発に事件の香り!?

女子大生・塚川亜由美はホテルのラウンジで緑川祐一郎という中年男性に、「僕を見張っていてくれ」と頼まれる。「誰かが見ていてくれないと、花嫁を殺してしまうかもしれない」と言うのだ。今日の挙式の花嫁は彼の元妻・みゆき。ある日彼女は手紙だけを残し、子供二人を連れて浮気相手のもとに去ったらしいのだが……。表題作ほか「花嫁リポーター街を行く」を収録。[解説/ 香山二三郎]

【本文紹介/ 「許されざる花嫁」より】

プロローグ

「あ、また花嫁だ」
と、神田聡子が言った。
「え?どこ?」
「ほら、ロビー」
振り返って、塚川亜由美は長いウェディングドレスのレースをたなびかせて歩いて行く花嫁を見た。
「本当だ。――今日は多いね」
「さっきのより、ドレス、高そう」
「ちょっと」
と、亜由美は苦笑した。
――塚川亜由美と神田聡子は同じ大学の親友同士。
今日は土曜日で講義がないので、二人はそろそろ終りかけている美術展を見に行っての帰りだった。
「ちょっとお茶しよう」
というわけで、このNホテルのコーヒーラウンジに入った。ラウンジからはロビーが見渡せて、度々花嫁がそこを横切って行くのだった……。
「亜由美はいいわね」
と、聡子が言った。「谷山先生がいるんだから」
「何よ、別に婚約してるわけじゃないわ。付合ってはいるけど」
谷山は、二人の通う大学の准教授で、目下亜由美の恋人。
「聡子だって、付合ってる男の子はいるんでしょ?」
「教えない、っと」
と、聡子はコーヒーを飲んだ。
「何よ、友だちのくせに」
――そこに、
「失礼だが」
と、男の声がして、「ご一緒してもいいかな」
「え?」
見れば、背広にネクタイのサラリーマン風の中年男。四十代の半ばというところか。
「あの……席、一杯空いてますよ」
と、亜由美が言うと、
「分ってる。ただ――誰かと一緒にいたいんだ」
よく見ると、ずいぶんやつれて、疲れている様子だ。

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